天台宗について

法話集

No.192再会できる場所

 昨年、ある檀家さんのご主人がお亡くなりになった。
 その方は、子や沢山の孫たちに囲まれ、こちらから見ても幸せそうに過ごされていたのだが、数年前に不幸にもかわいがっていた一番下の孫娘が満3歳で亡くなってしまったのだ。もうずいぶん経つのだが、その時のご家族、ご親族の悲しみようは、昨日のことのように思い出せる。
 私は孫娘さんの枕経が終わった後で、悲しみに暮れるご家族に対して「倶会一処(くえいっしょ)(倶會一處)」の話をした。【倶】は【ともに】という意味、【会】は【会う】という意味、【一処】は【極楽浄土】を指す。すなわち極楽に往生すると、阿弥陀如来をはじめとした仏、菩薩たちと出会うことができるという意味なのだが、私は「先に亡くなった方も、今亡くなった方も、これから先亡くなる私たちも、皆、阿弥陀さんのお導きによって、極楽浄土で必ず再会できますよ」と話をし、「だから、生きている私たちがしなければいけないことは、○○ちゃん(孫娘)が喜ぶ土産話を持って行ってあげることですよ。だから、お迎えが来るまでは、楽しく、元気に、一生懸命に生きて、○○ちゃんにたくさんいい土産話を持って行ってあげましょうね」と続けた。ご家族を元気づけたい一心だった。

 数年経って先日の彼岸参りでの事、そのお宅の親族集まっての食事と、私のお参りの時間が重なってしまった。こちらも時間に追われるお彼岸のことだから長居はできないなと思いながらも、ついつい亡くなったご主人の話になった。
 「お義父さんったら、住職の話を聞いたので、極楽で○○ちゃんを早く見つけられるように、○○ちゃんの棺桶に赤い服を入れたんですよ。白い服ばかりのところだろうから、目立つように」と、息子さんの奥さんに教えてもらった。
 『先に亡くなった自分の大切な人と再会できる場所がある。そのことをしっかり知っていることが、苦しみと隣り合わせのこの世界を生きていくうえで、心のともし火となる。だから、頑張れる。正しく生きることができる』
 私の拙い「倶会一処」の話が、亡くなったご主人、ご家族、ご親族の救いになったのかもしれないと思った。そう感じたことで、私も救われた。

 今頃、極楽浄土でご主人さんと○○ちゃんは尽きぬ土産話に花を咲かせているだろうか。


(文・近畿教区 中山寺 神木 成彰)
掲載日:2020年03月01日

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