天台宗について

法話集

伝教大師さまのみこころ

 天台宗の叡山流御詠歌の中に「地蔵菩薩本願詠歌」という曲があり、その歌詞には「人をのみ渡し渡して己が身は、岸にのぼらぬ渡し守かな」と詠まれています。お地蔵さまは、生きとし生けるものを悟りの岸に渡し、成仏させなければ、自分自身が悟りを開いて仏さまになることはないという、大きな誓願を立てられています。「地蔵菩薩本願詠歌」は、生命ある一切のものを救おうとする、お地蔵さまの誓いを渡し守に例えて詠まれた御詠歌であります。

 伝教大師最澄さまが天台宗を開かれたのも、お地蔵さま誓願の如く、すべての人々が幸せに生きることができる、浄仏国土をこの世につくりたいとの思いからでありました。そのためには、人々を教え導く菩薩となる人材を育てなければならないと考えたのです。そして、人材養成のために天台宗の修行規程を明確にした『山家学生式』を著し、大乗菩薩戒による一宗独立を嵯峨天皇に上奏したのでした。

 『山家学生式』の中に「国宝とは何物ぞ。宝とは道心なり。道心あるの人を名づけて国宝となす。一隅を照らす、此れ則ち国宝なり」と述べ、また、「悪事を己に向え、好事を他に与え、己を忘れて他を利するは、慈悲の極なり」と述べています。仏道を求める心を持ち、一隅を照らす行いをするものこそ国の宝であるといっています。そして、困難なこと、人の嫌がること自らに向け、容易なこと、良いことは他に与えて、自分のためよりも他人を利することを優先することこそが、慈悲の極みであるといっています。伝教大師さまのみこころを体して、多くの僧が比叡山で厳しい修行に励み、教えを弘めたことによって、多くの菩薩僧が養成されたのであります。

 アフガニスタンで医療活動とともに、井戸や用水路の建設作業に取り組んでいた中村哲医師が、銃撃されて死亡した事件が大きく報道されました。テレビ番組の中で、中村医師の好きな言葉が最澄さまの「一隅を照らす」であったと紹介され、ひたすら人々の幸せを願い、自分のことよりも人々に尽くすことに生きた人であったと、追悼の言葉が述べられていました。
 私たちも一人一人が、伝教大師さまのご精神である「一隅を照らし、己を忘れて他を利する」菩薩行を実践して、世の中に少しでも貢献できるように生きて行きたいと思います。


(文・福島教区 圓福寺 矢島 寛章)
掲載日:2020年02月01日

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