天台宗について

法話集

心に刻まれた「戒」

 土地の古老に、大切にしている言葉がありますか?と尋ねたところ、幼い頃から「傘と分別は忘れてはならない」と親に言い聞かされて来た、との答えが返ってきた。
 「弁当忘れても傘忘れるな」のことわざのように「傘と弁当」の組み合わせは一般に知られているが、「傘と分別」は初めて聞く言葉。
 その内容を教わると「分別とは何事も善悪を良く考えてから行動する」との意味。
 では傘は?「雨が降ると濡れるから、傘は大切」ではなく(古老の子供の頃には、子供用傘はない)、「いつもお蔭に感謝する」との説明。

 一人きりで誰も助けてくれないと思い悩み寂しくなると、「必ず誰かが貴方を見ているから安心しなさい」と諭されたことがあるが、傘はその下で私たちは守られているという慈悲の象徴となっている。
 社会生活において思慮なく感情的にふるまい、後で後悔することがある。
 また、誰かに認めてもらいたいという承認欲求に駆られ思いがけない行動をとることもある。
 そんな衝動にさいなまれた時、「いつも貴方は皆が守ってくれる傘の元にいますよ。だから安心して良く考えて行動しなさい」との教え。
 それはまさに、悪を止(とど)める仏教の「戒」の実践を平易な言葉で諭しているのが「傘と分別は忘れていけない」ではなかろうか。
 一人の古老の心に刻まれていた人生を歩む言葉ではあるが、密かに戒を伝える教えとして大切にしたい金言でもある。 


(文・山陰教区 鰐淵寺 佐藤 泰雄)
掲載日:2019年10月01日

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