天台宗について

法話集

No.45心やわらかく

 昔から、おめでたい初夢というと、一富士、二鷹、三なすび、と言われてきました。この解釈には諸説ありますが私流に説明させていただくと、富士山のように高貴で美しく、鷹のように決断と行動力に優れ、煮ても焼いても食えるナスのように柔軟性(じゅうなんせい)をもつこと、ということで、そういう人になれるように願ったのですからおめでたい夢というわけです。
 順番はともかく、三つのうちに地味の代表のようなナスを入れたところに昔の人の賢(かしこ)さが伺(うかが)えます。ナスは煮てよし、焼いてよし、漬け物もよし、と大いに柔軟性があります。しかし主役になれるような派手さはありません。ナスは下座行そのものです。人も下座行の中でこそ素直さや柔軟な心を培(つちか)うことができます。目立たない所で人のお役に立つこと、そして考え方に柔軟性をもつことが大切だと考えられたわけで、これは今の社会においても変わらない大事なことであると思います。柔軟性とは、余裕(よゆう)、融通性(ゆうずうせい)、素直さ、気持ちの切り換えが早い、臨機応変(りんきおうへん)、といったところでしょう。たったひとつのミスに、気持ちの切り替えができないで、そのままズルズル崩れてしまって逆転負けするなど、勝負の世界ではよくあることです。プラス思考という言葉がはやった年がありましたが、これも柔軟と同じような言葉です。元日に、神棚から雑巾が出てきました。暮れのお掃除のときに忘れたのでしょう。正月早々に縁起が悪いと主人が怒っていると、ある人が「雑巾(ぞうきん)を当て字で書けば蔵(くら)と金(かね) あちら福(ふく)々こちら福(ふく)々」と言ったので主人も大いに喜びました。プラス思考とは、考え方に柔軟性をもたせ、明るい方へ、よい方へ考えよ、ということだと思います。
 掃除は普通女性の仕事のように思われていますが、心をきれいにする務めは男性も女性も同じです。であれば、男性にとっても掃除は大事なことで、女の仕事などと決めつけず、気が付いたら自分でもすればよいのです。掃除は、誰もしないから仕方なくとか、いやいやするとか、そういうものではなく、知らず知らずのうちに心を浄めてくれる仕事ですから、自分のために楽しんでしたいと思います。そして心はいつも柔軟に、面子(めんつ)や自尊心(じそんしん)にとらわれずに素直な生き方を心がけてこの一年を過ごしていきたいと思います。
掲載日:2007年11月28日

その他のおすすめ法話

ページの先頭へ戻る