
疲れているときは周りの些細な一言にイライラしたり、楽しいことがあったときには気分がルンルンしたりと、私たちの心は周囲の影響を受けながら常に変化しています。
ここで一つ例を挙げますので想像してみてください。あなたは仕事が終わり疲れて電車に乗り込みました。幸運にも一つ席が空いていたので座ることができ、ついウトウトと…。そこへお年寄りが乗り込んできてあなたの目の前に…。あなたはどのような行動を取りますか。
考える暇なく席を立ちあがる方もいるでしょうし、疲れているので寝たフリをして気付かぬことを装う方もいるでしょう。またこうした方が良いと頭ではわかっていたとしても身体がついてこないということもあるかもしれません。おそらくその時のご自身の状態で行動が変わってくるものかと思います。
天台宗の教えの中に「十界互具」というものがあります。地獄・餓鬼・畜生・修羅・人・天・声聞・縁覚・菩薩・仏の十の世界の衆生の生命にはそれぞれこの十界の心が備わっているというもので、私たち人間にもこの十世界の心が備わっていると法華経に説かれています。
先ほどの例で言うと、自己中心的な行動を取ってしまうことも、相手を思いやった行動を取るのも私たちの心の世界の表れと言えます。常に良い行動を心掛けているという人でも、疲れや怒りに自分の心が苛まれてしまう瞬間もあるはずです。良くも悪くも私たちの心はこの十界の中を行ったり来たりしているのです。
相手を思いやる行動を取るためには、まず自分自身の心を整えていかなくてはなりません。そうは言っても、ツラいことがあって落ち込んだ気分を引きずって新たな失敗を招いてしまったり、反対に調子に乗って痛い目に遭ったり…、という経験もあることでしょう。大切なのは自分の心が今どういう状態なのか、一度立ち止まって見つめ直すことです。
鏡を見て顔がこわばっていたとき、ふとこれじゃいけないんだともう一人の自分がアドバイスできるようになると、心の余裕が生まれ周りの方の心の変化にも気付くことができ、より穏やかな暮らしが送れるのではないでしょうか。
(文・北総教区 大経院 落合 高秀)