天台宗について

法話集

No.226布施の景色

 比叡山延暦寺の総本堂である根本中堂では冬の時期を除いて、全国の天台宗布教師が当番で布教案内をする駐在布教が行われています。私も布教師の一員として何度かこの駐在布教に上がらせていただいております。その度に、その時の延暦寺の状況、今日の行事などに気を配り、せっかく来ていただいた参拝者にその時頃ならではの延暦寺を堪能していただけるようにと思っております。現在は根本中堂の改修工事の最中で、話にも自ずと工事の内容が加わります。

 「中央のお厨子に安置されておりますのは、伝教大師が一刀三礼して自ら彫刻されたご本尊、薬師如来像であります。秘仏になっており、今日は皆様、目のあたりに拝んでいただくことはできませんが、そのお厨子の前にある、お前立ち像を拝んでいただくことができます。その前方に1200年以上灯し続けられてきた不滅の法灯が三基の菊の御紋のついた灯篭に安置されています。しかし、このお堂はというと織田信長の比叡山焼き討ちのあと、江戸時代初め、寛永11年(1634)から8年を擁して寛永18年(1641)に完成したものです。近年では昭和の大改修が行われました。実に60年ぶりとなる大工事が現在進行しています。今は廻廊の屋根の葺替えが行われています。きれいな彩色の蟇股もはずして修理します。それから上をご覧ください。花の画のかかれた天井画があります。といっても黒ずんでよく見えないようになってきていますね。これらもきれいに修復される予定です。平成28年から工事は始まり、今で6年を経過してきましたが、コロナ禍の影響で物資や人材の不足から遅延が発生しており、当初の予定より遅れて、完成まではあと6年ほど要するようです。その際には蘇った根本中堂に是非お越しください。」

 「えー、それじゃあ私の命がもたんなあ。」とおっしゃる方や「ええ、是非ともお参りさせていただきます。楽しみにしています。」とおっしゃる方など反応は様々です。そんな中で最後までじっと聞いてくださっていた老夫婦が立ち上がって歩み寄られ、「あのー、お訊ねしますが、寄付の受付とかはなさっていらっしゃいますか?」と声をかけて下さいました。「ええ、御守り授与所で受付させていただいております」と答えると丁重に頭を下げて、夫婦で手を引きあって靴箱を通り過ぎ、御守り授与所へしずしずと向かって下さいました。その後ろ姿に思わず頭が下がりました。


(文・兵庫教区 真光院 吉田 実盛)
掲載日:2023年04月01日

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