天台宗について

法話集

No.217心の補陀落渡海

 当地方熊野には補陀落渡海という宗教儀礼があり、南方に在るという補陀落淨土(観音淨土)を目差し幾許かの食糧、水、油を積み補陀洛山寺の御住職が那智の浜から船出した。

 その歴史は古く貞観十年(八六八)から始まり江戸時代中期まで続いたと記録にある。

 最初の頃は生身の御住職が一人で船出したと言われ、時代が下がるとその御住職に追従する同行者という人々もあった。江戸時代中頃になると補陀洛山寺御住職が亡くなるとその亡骸を渡海船に乗せ船出させるという一種の水葬と形骸化していった。

 現代社会にあっては親が幼い我が子を虐待してその命を奪ったり、大国が自国の領土を拡大せんがため、他国に侵入し何の罪もない人々の命を簡単に奪ったり、世知辛いまた見苦しい社会・苦海にあって、観音様の御心、思いやりの心、優しさの心、慈しみの心を蘇らせ、その御心に近づいて頂き、また知らしめて頂き、平和で和やかな明るい社会に船出する心の補陀落渡海を目指して頂きたい。

 そのため、人々に御大師様の「一隅を照らす」「能く行い能く言う」「己を忘れて他を利する」ことを実行、実践して頂くことをねがっております。


(文・近畿教区 那智山青岸渡寺 高木 亮英)
掲載日:2022年07月01日

その他のおすすめ法話

ページの先頭へ戻る