天台宗について

The TENDAI Journal~天台ジャーナル~

天台ジャーナル 第10号

蘇れ!日本人の仏性 - 自らの声に耳を澄ませて -
大好きなあなたへ
 新しい年が明けた。
 今年、天台宗は、これまで拠点のなかった沖縄県に、新しい法灯がともる予定である。
 開宗千二百年慶讃大法会も、檀信徒総授戒を掲げ二年目に入る。「あなたの中の仏に会いに」をキャッチフレーズに全国で授戒会が開かれる。
 だが、気になるのは日本にもうひとつ元気がないことだ。
 景気は回復のきざしといわれるが「頑張れ日本」や「危機を救え」などのスローガンは、やはりこの十年近く低迷する我が国の現状を反映している。金融危機、少子化、年金不安などの内憂に加えて、テロや戦争、自衛隊海外派遣という外患も抱える。
 その根底には、あまりにも物質による幸せ幻想に慣らされてしまった日本の浅ましさがある。
 私達天台宗が総力を挙げて推進している総授戒の目的は仏性の開発である。人は、みな生れながらにして、仏の心を持っている。それに目覚めることが生きる喜びであり、源である。
 他を怨み、常に不満を抱え、他人の思惑を気にして右往左往している現状を「あなたの中の仏」に出会うことで、心豊かで幸せな人生とすることができるのである。
 伝教大師は「己を忘れて他を利するは慈悲の極みなり」と言われた。他の人を思いやり、自分ではない誰かの幸せのために努力することに日本再生の道がある。
 第十回静岡一短い手紙(静岡放送ラジオ)で、小学校三年生の金井みゆきちゃんは「大好きなとおちゃんへ」で次のように書いた。
 「家の下が工場だから、横をむいてねると、きかいの音がするヨ。だから一人でねていてもこわくないヨ。とおちゃん、仕事がんばってネ」。
 この確かな信頼と愛情を私達は仏性と呼ぶ。かつて、日本人は、大人も子どもも互いにこのような気持ちを持っていた。そして、その根っこを静かに流れるのは仏の教えである。言うまでもなく、この美しい心が日本を蘇らせるのである。そう私たちは信ずる。

素晴らしき言葉たち -Wonderful Words-

 悲しみのない人生などありません。ときにはうちのめされることもあります。神様はちゃんと見ていて天秤が悲しみばかりに傾かないように、喜びも経験させてくれる。喜びを探してごらん。喜びを胸に刻んで、できることなら、自分で喜びを作り出してごらん。そして、どんな喜びであろうと、それをいつまでも大切に抱きしめていてください。

「エミリーへの手紙」 キャムロン・ライト著 小田則子・恒志訳

 これは、もう亡くなった老人が七歳の孫に残した手紙の一節です。
 妻に先立たれ、自分の子どもとは心を通わせることが出来ず、アルツハイマーに冒されて、人生の終わりが近づいた老人が書いた手紙です。
 日本流に言えば遺書ということになるのでしょうが、この手紙には自分が歩んできた人生や、自分の真実の姿、家族の大切さを知ってもらいたいという願いが込められています。
 老人は、自分のことを少女に「親友」として覚えていてもらいたいという願いをもっていますが、それ以上に「人生における答えは、いつも目に見えるわけじゃない。物事を見極めるためには、いろんな方法がある」ということを教えるのです。
 「いつも最善を尽くして下さい。一日の終わりに鏡に映った自分を見て、今日は精いっぱいのことをしたと思えたら、その先もきっと満足のいく人生を歩めます」という言葉に、少女は祖父の人生を知り、また自分の人生を考えます。そして、また私達も。

鬼手仏心

殺してはならない   天台宗宗務総長 西郊良光

 新年だから、明るい話をしたいと思うが、やはり自衛隊のイラク派遣のことが頭から離れないので、そのことを書きたい。
 自衛のための組織を戦闘地域に派遣することに反対する意見が多い。
 小泉首相は「日本は『完全に安全になったら出かけます』ということで国際責任が果たせるのか。国際社会の中で名誉ある地位を占めたいという憲法前文の精神と合致するのか」と述べた。
 終戦以来、日本が直面した初めてのケースである。有力なマスコミ各社の意見も分かれている。
 どちらの主張も、国益や憲法違反という政治的言語を全面に出して展開されている。 私は、ひとりの仏教者として仏教の立場から考えてみたい。
 釈尊の示された最も基本的な五つの戒律を五戒という。その第一番目にあるのは「殺してはならない」である。
 すべての生けとし生けるものに慈しみの心を持つことが必要であると説かれている。
 私たち天台宗は、イラク戦争そのものに一貫して反対してきた。それは「大義のない戦争」だからではない。釈尊のみ教えに従い、人の命を奪い、環境を破壊する戦争そのものに反対してきたのである。
 従って、戦争の継続している地域へは、自衛隊を派遣すべきではないと考える。
 イラク全域が戦闘地域である以上、自衛隊の安全確保もできず、「正当防衛」による「戦闘」が予測されるからである。 テロの犠牲に斃れられた奥克彦大使、井ノ上正盛一等書記官のご冥福を心よりお祈りする。

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