
「どんどんどん、どんどんどん。夜分遅くすまないが、一夜の宿をお願い出来ないかのう。」
「旅のお坊様ですか。幼子が熱を出していて泣き声がうるさくても良かったら、土間の隅ででもお休み下さい。」
「すまんのう。雨露さえしのげればいいのじゃ。助かるわい。」
実は旅の僧は、子供の鼻の頭を舐める、という不気味な妖怪“瓜坊主(うりぼうず)”であった。鼻を舐められた子供たちは三日ほどむずがゆさが止まらない、とのことである。
「さぞ辛かろうのう。わしが良い薬草を持っておるから、煎じて飲ませてやるが良い。明日の夕方頃には、熱も下がるじゃろう。」
(明日の夜までここにいて、熱が下がった頃合いを見て・・・、しめしめ。)
瓜坊主は、一人にやにやしていた。
次の日のお昼過ぎである。何やら外が騒がしい。瓜坊主が出てみると、
「お坊様、うちの子にもその薬草を飲ませて下さい。うちの子にも・・・、うちの子にも・・・。」
大変な行列である。瓜坊主の薬草の話がいつの間にか、村中に広まっていたのである。
瓜坊主はにんまりしながら考えた。
(たくさんの子供の病を治して、それから・・・。しめしめ。)
「よしよし順番じゃ。すぐに良くなるぞ。」
しかし次々と病気の子供がやって来て、瓜坊主は鼻を舐める間など全くなかった。
やがて瓜坊主の話はお殿様の耳にも入り、瓜坊主の為に小さなお寺が建てられ、遂に瓜坊主は和尚様になってしまったのである。
新しく建てられたお寺でのこと、ある夜瓜坊主が寝ていると仏様が夢の中に現れて、
「これ瓜坊主、お前は今まで多くの子供たちの鼻を舐め回して困らせてきたのじゃ。よいか、これからはこの寺で薬草を煎じて、子供たちの病を治してやるのじゃぞ。」
瓜坊主はうとうとしながらも両方の手をこすり合わせ、
「ははー、よく分かりました。これまでのこと、どうか堪忍して下さい。もう悪さは致しません。仰せの通りさせていただきます。」
以上は私が創った昔話ですが、私たちも瓜坊主同様日頃の行いを見つめ直し、善行を積みたいものです。
伝教大師最澄様のたまわく『生ける時善を作さずんば、死する日獄の薪と成らん』
合掌
(文・北陸教区 髙岳寺 中野 純賢)