天台宗について

法話集

No.174力強く生き抜く心とは ―日々是好日―

 「平成」という元号は、天皇陛下のご退位により、来年4月30日を以て変わることになりました。
 平成「地平らかにして天成る。内平らかにして外成る」(『春秋左氏伝』・『書経』・『史記』)、その名付けの思いとは裏腹に、なんとも災害の多い30年間でした。
 阪神淡路大震災・東日本大震災・熊本地震・御岳山や草津白根山の噴火、豪雨・大雪・猛暑・次々とやってくる大型台風・深刻な地球温暖化・原発事故・土砂災害等々、ふりかえると数えきれないほどの災害が30年のうちに起こりました。
 政府行政は、そのつど様々な対策を打ち出しますが、自然を相手にしても到底かないません。私たちは、その猛威にただただ、おののくばかりです。「無事が何より有り難いことだ」と、しみじみ思う今日この頃です。

 ところで、檀家さんのお宅を訪ねると、よく『日々是好日・・・実篤』と書かれた色紙を目にします。私は、この言葉は武者小路実篤の名言だと思っていたのですが、そうではなくて、中国唐代の雲門文偃禅師(うんもんぶんえんぜんじ)が自らの悟りの境地を語った言葉だと、つい最近知りました。
 『日々是好日』の意味は、単に「毎日が平穏無事に過ぎて行く」ということではありません。「良い日でも悪い日でもどんな一日であろうとも、その一日は二度とやって来ない、かけがえのない大事な人生の中の一日である。一瞬でも疎かにしてはならない。精一杯生きることを心掛ければ、自ずと清々しい一日を送ることができる。つまりは、毎日が好日である」という意味なのだそうです。

 人間は弱いものです。天気がいいか悪いか、家人の機嫌が良いか悪いか、仕事がうまくいったかどうか、そんな外からの状況や過ぎてしまった結果に影響されて、気持ちが浮かんだり沈んだりしてしまいます。みんな自分自身の心のこだわりやとらわれなのに・・・。とは言っても、いつも平常心でいることはなかなか難しいことですよね。
 ただ、平常心でいることを心掛けて日々を過ごすことは、案外誰にでもできることなのではないでしょうか。気持ちが高ぶりすぎても沈みすぎても人間なのだから仕方ない。失敗しても失敗した自分を許してもう一回頑張ってみる。それでも失敗したら、もう一回自分を許して、もう一回頑張ってみるという、日々を柔軟に生きることができれば日々是好日です。この柔軟に生きることこそ平常心で生きることだと私は思っています。
 怒っても一日、笑っても一日、悲しく過ごしても一日、楽しく過ごしても一日。どちらがよいか簡単に分かりますよね。

 天台宗の宗祖伝教大師最澄さま。最も澄みきった心をお持ちの宗祖大師は、清々しく生きる心の有り様を今の私たちにも教え伝えてくださっています。最澄さまの一生は「日々是好日」であったに違いありません。そして最澄さまは私たちが日々是好日の生活を送るために一隅を照らすという教えを説かれたはずです。だとすれば、私たちが日々是好日に生きることこそ宗祖大師のご恩に報いることになるのではないでしょうか。
 みなさんが毎日を笑顔で過ごされますよう、心よりお念じ申し上げます。
合掌



(文・埼玉教区 徳性寺 鷲田 禎彦)
掲載日:2018年09月01日

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