お釈迦様の出家のきっかけとなった四門出遊の話を『過去現在因果経』から要約してご紹介しましょう。
お釈迦様はカピラ城の白浄王(浄飯王)の王子シッダールタとして誕生しました。香山に住むアシタ仙人にシッダールタの将来を占わせたところ、類いまれなる吉相を見て「在家であれば世界を統治する転輪聖王なられるか、出家をすれば悟りを開いて仏陀となり衆生を救う聖者となられるでしょう」と占断しました。王はたいそう喜びシッダールタが転輪聖王となるよう大切に育てました。
青年になったある日、シッダールタは園林で催しがあると聞き王様に出遊の許可を願いました。宮殿にこもりきりの王子を心配した王はこれを快諾しました。
シッダールタが東門から出城した際出会ったのは、白髪で背の曲がった老人でした。シッダールタは誰しも必ず老いゆくことを知ることになりました。数日経って今度は南門から出城しました。その際出会ったのは、枯れ木のように痩せて呻くように息をしている病人でした。シッダールタは誰ひとり病から逃れることができないことを知りました。
深く憂慮しているシッダールタを王は心配してウダイという聡明なバラモンの青年を入宮させることにしました。王はウダイに「太子はどうもこの世の五欲(五感の快楽)を楽しもうとしない。太子が出家の念を起こさぬようそなたは友として仕え、五欲の楽しみを教えるのだ」と命じます。こうしてウダイは王命によりシッダールタの友となり、行住坐臥を常に共にして側で仕えることになりました。
暫くしてシッダールタはまた出遊を王に願いました。王は念入りに行路を整備させ不祥事が起きぬよう差配しました。そしてウダイには何事があっても太子の気持ちが削がれぬよう取りなすのだと命じました。
シッダールタはウダイを伴って今度は西門から出城しました。完璧に整備されたはずの行路でしたが葬送の輿の上にのった遺体と遭遇します。シッダールタは「いったいこれは何なのだ」とウダイに問います。しかしウダイは王勅によってこの不吉な様子を答えることができません。三度問われ「これは死人です。死とは体が解体され、意識も全身の機能も失うことです。人は欲を貪ぼりお金や財産に執着して暮らしますが死ぬ時はすべて捨てなければなりません。命が終われば草木と同じなのです。」と答えました。シッダールタは恐れおののきましたがウダイは御幸を続行させました。
煌びやかに装飾された園林に到着すると、天女のように端正な女性たちがシッダールタの沈んだ心を喜ばせようと競って歌い踊りました。しかしシッダールタの心は晴れることはありませんでした。
ウダイは「私は太子の無二の友人です。今から私が誠を尽くして申し上げることをどうぞお聞き下さい。そもそも今も昔も王達は五欲をすべて味わい尽くしてから出家なさいます。太子よ、人の世に生まれたならばその習いに従う方が良いのです。学道のために出家し国をお捨てになってはなりません。どうか五欲を受け入れてご子息をお作り下さい。決して王の跡継ぎを絶やしてはなりません」と進言します。それに対してシッダールタは「お前の言うことはもっともだ。だが老・病・死の苦しみを恐れるがゆえ五欲に愛着したくはないのだ。お前の言う王達は欲を貪ったせいで未だに苦しみの世界に転生しているではないか。私は輪廻の苦しみから離れたいのだ」と答えます。ウダイがいかに説得してもシッダールタが思いをかえることはありませんでした。
苦悩をいっそう深めたシッダールタは今度は北門から出遊しました。そこで一人の修行者に出会いました。
「そなたは何者か」とシッダールタが問うと、修行者は「私は煩悩のない聖なる道、執着によって永遠に輪廻することのない解脱の岸に到ることを修学している者です」と答えました。これを聞いたシッダールタは「なんと素晴らしいことだ。私の進むべきはこの道なのだ」と感嘆し出家を決意しました。
こうしてシッダールタは王子という身分を捨てて修行者となり35歳で悟りを開いて仏陀となられました。
(文・玄清法流 華王院 坂本 清昭)