天台宗について

法話集

No.202志を立てる

 みなさんはなにか「志(こころざし)」と呼べるものはお持ちでしょうか。
 「一年の計は元旦にあり」と、正月に今年はこれをしようなどと目標を立てられた方もいらっしゃるのではないかと思いますが、「三日坊主」になってはいませんか。
 あるいは若いころに立てた「志」を持ち続けているという方がいらっしゃいましたら、それは大変に素晴らしいことだと思います。

 平安時代に天台宗を開いた伝教大師、最澄様もそのような方でした。ちょうど今年(2021年)、亡くなってから1200年の大遠忌を迎えられますが、亡くなる前に弟子たちにこのような遺言を残しています。
 「我が為に仏を作るなかれ、我が為に経を写すなかれ、我が志を述べよ」
 私のために仏像を作り、経を写すなどするよりも、ただ私の志を後世まで伝えてほしいと。
 では、その最澄様が立てた志とはどのようなことだったのでしょうか。

 最澄様が19歳の時に書いた「願文」という文章には、「過去・現在・未来に修めた功徳を自分の身に受けるのではなく、ありとあらゆる存在に巡らせ、全ての人が最高の悟りに到達できますように」と述べられています。
 一人だけではなく、みんな一緒に伴って、全ての人が悟りに行けるように。これが最澄様の志であり、実際にその後生涯をかけて、すべての人が仏になれるという一乗の教えを説かれ、自分だけではなく人々を悟りに導く菩薩の道を歩む人材を比叡山で育てようとされました。最澄様は「忘己利他」(己を忘れ他を利する)という有名な言葉を残しておられますが、その利他の精神は若いころから亡くなるまで一貫されていたのです。
 でも、志を立て、実践するなんて自分には難しいと思われる方もいるかもしれません。
 ですが、それでも志は立てることをおすすめします。

 昨年、大ヒットしたテレビ番組に『半沢直樹』というドラマがありました。主人公の銀行員・半沢直樹は、魑魅魍魎(ちみもうりょう)のような政治家らによって幾度もピンチに陥りますが、そんなとき半沢がよりどころとしたのが「顧客第一」という銀行の経営理念でした。世の中、思い通りにいくことの方がまれで、判断に迷うことも多々あります。ですが、志があればそれに反するか否か判断のよりどころとなりますし、たとえ時には折れざるをえなかったとしても、再び志に立ち返ることはできます。
 どうぞ、それぞれのお立場でそれぞれの志を立ててお過ごしください。そして、その志の一部にでも、最澄様の掲げられた「忘己利他」の精神を加えていただければ、それは立派な菩薩の道であり、皆様自身が菩薩としてそれぞれの場所で、一隅を照らすことにほかならないでしょう。


(文・北陸教区 窓安寺 久保 智祥)
掲載日:2021年02月01日

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