日本人は昔から「道」という文字や言葉が好きなようである。鎌倉時代に栄西禅師が抹茶の飲茶法を日本へもたらし茶道の基礎ができ、室町時代の中頃に池坊の僧侶が、仏さまに花をお供えしたことが供花の起源とされ華道の始まりだという。
書道、香道、芸道の文化系そして武道系には剣道、弓道、武士道、柔道、相撲道、居合道、空手道、長刀道、合気道…かつては野球を野球道と呼んでいた時代があった。
このように日本人は社会の各所で「道」を重んじてきた。日本人は「道」という言葉や文字に高い精神を求め人として生きる道を追求してきたのだと感じる。
この自然界にも、やっぱり「道」があります。潮の流れに「道」があり、季節風にも「道」があり、潮の流れと風の流れが微妙に交差して「道」を創っています。船はその上に乗っかってやってきます。飛行機は風の流れに乗ってやってきます。
今から五十年ほど前、私は十年に渡り、師僧の使いで三重県の尾鷲市に再三再四出かけたことがあります。尾鷲港から百トン程の船に乗せてもらって、熊野灘から太平洋へ出かけたことも何度かあります。港から三時間ほど外海へ出ると、千トン級や万トン級の貨物船などの大型船が紀伊半島を目指して入って来ます。そこから横浜や神戸などに向かって別れて行くのです。
かつて戦争の時代に「B29・紀伊半島に上陸」というニュースがよく流れたそうです。ということは、飛行機も風の道(気流)に乗ってやってくると、やっぱり紀伊半島に来るのです。
私は四十一年間に渡って日本の青少年(小・中・高校生)を五十名前後、新聞等で公募して、北マリアナ諸島中のサイパン島へ派遣してきました。勿論飛行機での渡航です。サイパンへの往路は三時間十分ほどかかります。復路は二時間四十分ほどで帰国できます。行きは気流に逆らって飛ぶので時間がかかり帰りは気流に乗って飛ぶので時間が短縮できるので、時間も、燃料も疲れも軽減されるのです。
現地では、サイパン島の隣にあるテニアン島に子供達を引率して船で渡ることがあります。直ぐ行けば三、四十分で渡れるほどの近くですが、大廻りして二時間以上かけて渡ります。サイパン島とテニアン島間の潮の流れが早く逆らえないからです。定員百名程の船ですが流れに勝てないらしいです。
如何に科学の先端技術を駆使しても自然界の「道」に逆らうことは出来ないし、勝ることもできないのです。
そして人の「道」、このように日本人は社会の各所に道を重んじてきた、我々の祖先は「道」という言葉や文字に高い精神性を求め、人として生きる「道」を追究してきたのだと感じる。
祖先が諭した「道」を私達は大切に受け止め引き継ぎたいものです。
(文・信越教区 善光寺大勧進 栢木 寛照)