先日、自坊で寺宝展を開催しました。たいしたお宝はありませんが、虫干しもかねて仏画の御軸を広げ、参拝の方々に見ていただきました。
参拝の方がある仏画を見て「これはいくらぐらいするんですか?」と訪ねられました。私はどう答えようかと、少し思案しました。
テレビ番組でも有名な中島誠之助さんの本に命がけで骨董品を守った話が出てきます。
関東大震災の時、東京の日本橋にあった料亭が火災に遭いました。主人が大切にしていた骨董の花瓶を番頭さんが守ったそうです。迫り来る火で髪がちりちりになってしまうほどの熱さの中、番頭さんはそれを持ち出して、隅田川の流れの中に立つ橋の杭につかまり、水に浸かりながら花瓶を抱きかかえて守ったそうです。おかげでこの花瓶は無事残り、今では美術館で展示されているそうです。
物の価値というのはこういう物語をちゃんと理解することではないでしょうか?この花瓶には、苦労をして残そうとした人の物語があります。
私は「値段は分かりませんが」と答え、その仏画の由来を説明しました。
岡山藩主、池田継政公が江戸におられたときに、ご病気になられたそうです。殿様の枕元に観音様が現れて、「我は国元の東向き観音である、悩む心を祈る心に変えれば、たちまち病は治るであろう」と告げられました。殿様が使いを出して調べますと、うちの観音様が東向きです。お参りをされて、病気がたちまちに治ったそうです。殿様はそれ以来、何代にもわたって信仰され、絵や書を奉納されました。奉納されたものは大切に守られ今も伝えられています。
値段を聞かれたのはそのうちの一つでした。他に作例がありませんので希少価値はあるのでしょうが、値段は分かりません。それよりも有り余る由来があります。この絵がうちにある由来や縁を大切にしたいと思います。
これは寺宝に限ったことではありません、お寺には昔からいろんな人が関わり、支えていただいて今があります。僧侶と檀信徒が持ちつ持たれつで歴史、年輪を重ねるところに価値があると思います。今までお寺に携わってきた多くの人々の思いとか、その歴史、そこの価値をきちんと理解する。これは本当に大切なことだと思います。
(文・岡山教区 本乘院 小林 周伸)