天台宗について

The TENDAI Journal~天台ジャーナル~

天台ジャーナル 第227号

「忘己利他」の実践を
大樹天台座主猊下より垂示 ――延暦寺年頭式

 令和4年延暦寺年頭式が1月8日、延暦寺会館で催された。宗内諸大徳、政財界などから約2百名が出席し、昨年11月22日にご上任された大樹孝啓天台座主猊下に新年のご挨拶を行った。また比叡山から発信する今年の言葉『大悲万行(だいひまんぎょう)』が発表された。

 年頭式は午前11時に開式され、延暦寺一山住職出仕のもと、大樹天台座主猊下を大導師に法楽を厳修。水尾寂芳延暦寺執行が大樹座主猊下に新年の挨拶を言上した。

 大樹座主猊下は、〝お言葉”で、依然猛威を振るう新型コロナウイルスにより犠牲となられた方々を悼まれ、医療従事者に感謝を述べられた。

 そして「浄仏国土を目指された伝教大師は、菩薩僧の育成に心血を注がれた。その菩薩を作るには、『布施、持戒、忍辱、精進、禅定、智慧』の六行が必要です」と教示。それぞれが「忘己利他」を実践することで、互いを尊重しあう社会が生まれるとし、「人間界だけに限らず自然界を慈しみ共生することで、環境問題も解決の道が開けます」と、一日も早い世界平和の訪れを望まれた。

 続いて阿部昌宏天台宗宗務総長が挨拶し「祖師先徳鑽仰大法会の最終年となる。昨年に続いて九州、京都の国立博物館で開催される特別展『最澄と天台宗のすべて』をご覧いただき、総本山比叡山延暦寺への参拝を通じて、お祖師様の御精神に一人でも多く触れて頂きたい。また今年は比叡山宗教サミット35周年『世界宗教者平和の祈りの集い』を迎える。平和と安寧を享受できる社会を願われたお大師様の誓願を日本仏教の母山比叡山より世界に発信して参りましょう」と話した。

 また四天王寺管長の加藤公俊猊下、比叡山法灯護持会会長の鳥井信吾サントリーホールディングス株式会社副会長、三日月大造滋賀県知事が、それぞれ挨拶を述べられた。


――利他の行いを

 毎年発表している「比叡山から発信する言葉」として「大悲万行~すべての行いは大悲から~」が水尾執行から紹介された。

 「大悲とは、仏さまが常に人々を見守り、苦しみを取り除き安心を与えて下さる御心のこと。私たちにも具わる仏心に目覚め、利他の行いに努めましょう」と呼び掛けている。

素晴らしき言葉たち -Wonderful Words-

「政治家は自分の言った言葉を決して信じていないので、それを真に受ける人がいるとびっくりする」

シャルル・ド・ゴール

 フランスのド・ゴール第18代大統領の言葉です。軍人を経て政治家になった人で、米国、ソ連の2大国の間にあって、独自の外交でフランスの存在感を示したことでも知られています。この言葉は半世紀以上前に言われた言葉ですが、今も、十分に通用する言葉だと思います。

 日本の政治の場を見ても、政治家の言葉に信用を置く人はあまりいないようです。政治家のほうも、内容よりも、いかにそれらしく響く言葉を使うかということに苦心しているようです。「不退転の決意を持って」とか、「可及的速やかに対応する」、「前向きに検討する」などは今では「慣用句」となっているようで、実際その後、言葉のごとくなったかというと、不明です。むしろ「言葉」自体の意味をなくしているかのようです。

 また、トランプ前アメリカ大統領も、言葉の本来の使い方をしない政治家といえましょう。フェイクニュースで話題となりましたが、虚偽の言葉をなんの躊躇もなく、さも真実であるかのように使いました。大統領選挙で敗れた時「大きな不正があった」とか「本当は大差で勝利していた」など、堂々とコメントしています。

 日本では昔から「言霊」といって、言葉に霊力があり、現実世界に影響を与えるとされています。古今和歌集を編んだ紀貫之は、和歌についての序で「力をも入れずして天地を動かし、目に見えぬ鬼神をもあはれと思はせ」と言葉の力について言っております。
その考えからすると、今の政治の世界での言葉は、ほとんど「言霊」など意味を持ちません。

 さて、政治の世界では、言葉の本来の重みは取り戻せるでしょうか。というよりも、政治家である限り虚言の習性はなくならないといえるのでは。

鬼手仏心

かつての日常に

 いつでも、どこでも話題に上るのは、この1、2年はコロナ禍でしょうか。昔からある感染症だったら、それまでの医療経験からいろいろと対症方法が挙げられますが、今度の新型コロナ感染症は、それが全くといっていいほど、手探りの対応しかできませんでした。予防法も手洗いやマスク着用、ソーシャルディスタンスをとるなどで、ただワクチン接種のみが希望の光でありました。しかし、ワクチン効果は時間と共に次第に減少するとかで、何回も打たなければならないようです。

 それに当初は、重症になりやすい高齢者や基礎疾患のある方が最優先でワクチン接種が行われましたが、最近では10代以下の子ども達にも接種する方向になりました。気がかりなのは副反応で、これも子ども達にはどのような形ででてくるのか、不安ばかりです。子どもへの対応といえば、幼稚園や小学校での子ども達の扱いも今もって大変です。

 コロナ感染の影響は様々なところに出ましたが、子ども達を預かる施設として心配なのは、コミュニケーションの取り方でしょうか。コロナ禍以前なら、保育士の先生も頬刷りしたり抱きしめたりするような、「濃い」コミュニケーションがとれたのですが、コロナ禍以降では、躊躇(ちゅうちょ)してしまいます。その上、マスク着用ですから表情も充分に活かせません。先生も大変ですが、子ども達がこのコミュニケーション状況が「当たり前」と錯覚しないかというのが一番気がかりです。

 そう思うと、コロナ以前の自由な幼稚園生活が懐かしくなります。「早くかつての日常が戻りますように」と願うばかりです。

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