天台宗について

法話集

No.26自分を大切にすることとは

 古代インドにあったコーサラ国王のパセナーデ王は、自分の愛する妃に「お前は世の中で何を最も愛しいと思っているか」と聞きました。彼は妃が、王のことを愛しいと思っていると答えてくれるのを、秘かに期待しておりました。ところが妃のマリカは一瞬ためらいながらも「私がこの世で最も愛しいと思っているのは、自分です」と正直に答えたのです。それを聞いて夫のパセナーデ王は、少しガッカリした様子でしたが、「マリカよ、その通りかもしれない。実は私も、自分自身が一番愛しい」と答えました。
 それから二人は釈尊のもとにいき、正直に悩みを打ち明けました。「お釈迦さま、あなたは私たちにいつも、自我を捨てよ、とお説きになりますが、私たちはそれぞれ自分が愛しいので、どうしても自我を捨てることができません」。すると釈尊は二人に向かって「あなたたちの悩みは尤もなことである。自分を一番愛しいと思うことは、人間にとって当たり前のことなのだよ。ただし、それに気がついたら、他人の自我も自分同様に大切にしなければならないのだ。すなわち他人の心を傷つけたり、又他人を殺したりしてはならないのだ」と諭されたのでした。
 他人を大切にすることこそ、自分を大切にすることになる、というこの転換がなければ真の人間関係は成立しません。すなわち相手と同じ目線に立つことであります。仏教の言葉でこれを「同事摂(どうじしょう)」といって、人間が人間らしく生きるための実践すべき大切な徳目のひとつに数えています。相手と同じ目線、すなわち同じ立場に立つには、相手を理解しなければなりません。理解とは、自分と同等か、それ以上の価値を相手に見出すことでもあります。そのためには、ほんの少し自分を抑えることも必要でありましょう。
掲載日:2006年03月17日

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