天台宗について

法話集

No.137無駄から生れる豊かさ

 私たち人間は食物連鎖のピラミッドの頂点にいます。一つの種が絶滅することはピラミッドのブロックの一つが欠けたことと同じで、欠けたブロックを再生するのは至難の業です。

 愛媛県で絶滅危惧Ⅱ類、松山市では絶滅してしまった、キイロサナエ(黄色早苗)と言うトンボがいます。以前、調査に同行しましたので、このトンボの保護活動について紹介します。

 保護されている一帯は農村地帯で調査日の六月六日は田植が終って間もない時期でした。幅一メートル足らずの農業用水路は夏草が茂り水路と分からない程でした。このトンボのヤゴは水路の底に溜った土の中で成長します。水路の三面がセメントにされると生きてゆくことが出来ないのです。

 畑で作業をされていた農家の男性にお話しを聞くことが出来ました。セメントの水路にした方が作業は楽で、お米の収穫量は変わらないが水路の清掃、管理が大変だとのことでした。農家の皆さんの理解と行動が有って、やっと絶滅を免れているのです。

 水路の清掃、管理はお米の生産量においては同じでも生産効率はマイナスに作用しています。このマイナスと引き換えに一つの種が絶滅を免れているのです。私たちは多くを消費することが贅沢で豊かだと思い、効率よく生産活動をした方が得だと考えてしまいがちです。確かに一点一点においては、そうなのですが、全体のことを考えると、いつも疑問が残ってしまいます。

 今回、一つの種の保護活動をしておられる農村地帯に接することによって本当の贅沢、生活の豊かさとは、こういう一見、無駄と思われることにこそ有るのだと知ることが出来ました。

(文・四国教区 正觀寺 高橋 博道)
掲載日:2015年08月01日

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