天台宗について

法話集

No.123「智目行足」(ちもくぎょうそく) 布施行のすすめ

 三つ子の魂百までもという諺がありますが、どのような価値観の基で育てられたかは人生を大きく左右します。最近の親の大半が「人に迷惑をかけない人に育てる」を主眼にしています。人に迷惑をかけ献身的努力に支えられて子は育ちます。このことなしに生きられない子のために神は、「あどけなく、憎めない笑顔」を子どもに贈られたのです。子の笑顔は世話をする人にその苦労も迷惑も忘れさせる力を秘めています。家庭教育で、絶対教えなければいけないことは、「周囲の人に迷惑をかけ支えられて育ったのだから、感謝し恩に報いなければいけない」ということです。人に迷惑をかけないという内向けの教育を受けた子は成長して後、人から迷惑をかけられることを避け、その結果、無縁社会の発生の一因にも連なります。
 休むことなく動く五臓六腑の身体の営み、生命を維持するための食事には尊い動植物の生命をいただき、偉大な宇宙の生命を育む力に抱かれて人は生かされて生きているのです。この事を認識できるのは、人間だけでしょう。宗教は、ここが出発点です。人間とは何者か、どう生きれば良いか。その方向を示す羅針盤が仏教でもあります。お釈迦様は、教えの中で常に布施行を勧めておられます。伝教大師様も同じです。発願文に、「人身(にんしん)を得(え)て徒(いたずら)に善業(ぜんごう)を作(な)さざるを聖教(しょうぎょう)は空手(くうしゅ)と嘖(せ)めたまえり」と。又、山家学生式に「能く行い能く言うは国の宝なり」と布施行の実践を強調されております。「働く」とは、「身を動かし、はたの人を楽にさせる」ことを表した文字です。書店に行くと仏教書がずらりと並んでおりますが、学んだことを実践することが大切です。これを「智目行足」といい、仏教の基本であります。
 卑近な例ですが、カンボジアを訪問、向学心があっても学校の絶対数が不足の農村部を見て帰国。布施行として小学校建設を呼びかけ4名の住職の賛同を得、現地の友人に手伝いを願い土地の手配・設計の見積りや地鎮祭・落成式に至るまで交流を深めながら昨年12月8日の成道会に落慶式を完了できました。他の友人が、井戸のない農村に4本の井戸を掘り贈られました。5教室とトイレ付き200名の小学校を設置させていただきました。
 布施行は、日常生活の中で誰にでも出来ます。「無財(むざい)の七施(ななせ)」がそれです。子は子なりに、学生は学生なりに、成人も老人も病人も、そのままで布施行はできます。眼施(げんせ)【目はいつもやさしく】。和眼悦色施(わげんえつじきせ)【ほほえみをたたえ】。言辞施(ごんじせ)【すみません・ありがとう・おかげさまで・どうぞ 等素直にいい】。身施(しんせ)【人のため自分の力をつくす】。心施(しんせ)【助け合い・かばい合い・信じ合い】。床座施(しょうざせ)【席を譲る】。房舎施(ぼうしゃせ)【家の中で休んでもらう】の七種の布施行です。
 健康を害した今、境内と幼稚園の掃除を毎日続けて、来た人が少しでも楽しく過ごせることを願っての布施行です。

(文・宇南山照信)
掲載日:2014年06月01日

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