天台宗について

法話集

No.173追善供養

 「悪いことをした人は死ねば地獄に堕ちるんだよ。」
人は亡くなると六道輪廻するのでしょうか?
平安時代の天台僧、恵心僧都源信さまは『往生要集』で地獄や餓鬼、畜生に生まれないように念仏することの大切さをお説きになりました。しかし、私は昨今の世相の中で、現代人は死んでも地獄に行くとは思っていないのではないかと思うようになっていました。そんな時の話です。

 おじいさんを亡くしたお家にお参りに行きました。1週目(初七日)の法要からご夫人、子どもさん、お孫さんが座っていっしょにお経をあげていました。4週目の法要が終わり
「来週は5週目ですね。昔から人が亡くなると閻魔大王さまに生前の行いの良し悪しを裁判で裁かれ、悪いことをしていたら地獄に堕とされるんだそうです。おじいさんはいい人でしたよ。極楽へ行ってほしいですね。そういう気持ちで念仏いたしましょう」
と言って帰りました。その翌週のことです。私が行くといつもちょこんと座っている小学校2年生の男の子がいません。
「どうしたの?」
と聞くと、お母さんがにっこり笑いながら、フスマの後ろを指さすのです。見るとその子が泣いています。
「今日は裁判で、もしおじいちゃんが地獄へでも行くことになったら大変だ」
と心配して泣いていたというわけです。
「僕はこんなにおじいちゃんのことが好きです。僕のことをかわいがってくれていたおじいちゃん、極楽にいってね、と願っていっしょに念仏しましょう」
といって法要がはじまりました。私もあの子も家族もみんな一生懸命です。終わって母親が言うには
「この子は僕がいい加減なことをしていておじいちゃんが地獄に堕ちたらかわいそうだと思って、この1週間、今までしたこともないお手伝いも一生懸命し、勉強も一生懸命してきたんですよ。」
「そうでしたか。だったらおじいちゃんは極楽行き間違いなしですね。でも怠けてたらおじいちゃんは極楽でがっかりするだろうから、これからも頑張ってね」
男の子の顔は晴れやかになりました。これが本当の追善供養だと思いました。


(文・兵庫教区 吉田 実盛)
掲載日:2018年08月01日

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