天台宗について

The TENDAI Journal~天台ジャーナル~

天台ジャーナル 第270号

比叡山宗教サミット38周年「世界平和祈りの集い

-対話と祈りで平和な世へ-

 国内外の諸宗教代表者らが一堂に会して世界平和を祈る比叡山宗教サミット38周年「世界平和祈りの集い」が8月4日、比叡山上で開催された。

 戦後80年を迎えたのを機に、昨年ノーベル平和賞を受賞した日本原水爆被害者団体協議会(日本被団協)の田中熙巳代表委員を講師に招き、平和の大切さを考える機会を共有。約450名が対話と祈りを通じた平和活動に献身することを誓い合った。

 1987年から開かれてきた比叡山宗教サミット「世界平和祈りの集い」が2年後に40周年の節目を迎える。35周年記念からは祈りの意義と精神を継承することを目的に、特に次世代を担う若年宗教者らへ参画を呼びかけている。
 
また、厳しい暑さに配慮し一昨年から屋内と屋外の2部制に移行している。

 延暦寺会館大ホール「比叡」で細野舜海天台宗宗務総長が挨拶し「平和の式典」を開会。戦後80年を迎えた本年は、ノーベル平和賞を受賞した日本被団協の田中熙巳代表委員を招聘した。

 「核兵器も戦争もない人間社会を」と題した田中代表委員は、中学1年生の時長崎市で被爆した体験から、70年に亘って世界に核廃絶を訴えてきた活動を紹介。平和と人を愛する心を育む教育の必要性を訴え、精神的支柱である宗教者への期待と協力を願った。

 そしてSDGsの観点に基づいた取り組みから、会場参加者の総意を得て記念品作成費相当額の浄財40万円が日本ユニセフ協会に寄託された。

 続いて屋外の一隅を照らす会館前祈りの広場で「平和の祈り」が15時20分から始まった。次世代を担う宗教者を代表し、神社神道の戸内結律子(とのうちゆりこ)さん、仏教代表で天台寺門宗の犬山空翼(いぬやまくうよく)さんが初回に発表された『比叡山メッセージ』を朗読し、継承されてきた平和への精神を会場で再確認した。

 そして藤光賢天台座主猊下ら10名の教宗派代表者らが登壇。天台仏教青年連盟の甲斐健盛代表ら3名が鐘打する『世界平和の鐘』に合わせて会場全員が黙祷し、世界平和への祈りを捧げた。

 主催者を代表して挨拶された藤天台座主猊下は「あらゆる兵器や暴力のない、慈愛に満ちた社会の実現に邁進します」と述べられ、戦後80年の誓いとされた。 また世界仏教徒連盟のパロップ・タイアリー会長、ローマ教皇庁諸宗教対話省のジョージ・ジェイコブ・クーバカド長官から平和メッセージが寄せられた。

 この日の模様は動画サイトYouTubeで配 信され、天台宗公式サイトからアーカイブ動画が視聴できる。

素晴らしき言葉たち -Wonderful Words-

自修自得

松下電器産業(現・パナソニック)創業者 松下幸之助

 経営の神様といわれる松下幸之助氏は、「我が国を導く真のリーダーを育成する」ことを目的に、昭和54年、84才のときに松下政経塾を設立しました。自修自得は、塾の教育理念に掲げられている言葉です。 

 松下氏が「自分の頭で考えなはれ」とよく言っていたことは有名です。自ら問いを発し、自ら答えを掴んでほしいという「自修自得」の精神を端的に表しています。  
 
 松下政経塾には、常勤の講師が置かれず、あえて教えてもらえない環境が作られました。塾生に自力で道を切り開くことを促したのです。

 松下氏の薫陶を受け、塾頭、副塾長を歴任した上甲晃さんは、雑誌の対談で「我われは君たちを川まで連れていけるけれども、水を飲むのは君たち自身なんだ」という、松下氏の言葉も紹介しています。
 
 情報化社会において、手元にあるスマートフォンを開けば、知りたいことが瞬時に手に入れられます。調べものがあると、つい検索に頼りがちです。このような時代だからこそ、自修自得の力が試されているように思います。

 せっかく新しいことを始めようと思い立っても、評判が悪いことが書いてあるとつい鵜吞みにし、躊躇してしまいます。受け身の姿勢では前に進めないとわかってはいても、二の足を踏みます。

 だからこそ、松下氏がいう問いを発す、答えを掴むことが大切です。自らの好奇心から生まれる問いこそが、私たちを正しい道へと導いてくれる指針となるでしょう。

 上甲さんは、「塾を卒業した人たちが、それぞれの持ち場で自分の花を咲かせることが重要です」とも述べられています。

 これは伝教大師の「一隅を照らす」の教えにも通じます。

 自らが努力して得た力を、今度は家庭や職場、地域に還元する。そういった人が増えることで、きっと社会全体が明るく輝くはずです。

鬼手仏心

米国に根付く天台の法灯

 天台宗の北米開教の拠点、ニューヨーク別院慈雲山天台寺が落慶20周年を迎え、去る6月14日に記念法要と得度式が奉修されました。日本からは記念法要の導師を務められた三千院門跡の小堀光實門主、延暦寺の獅子王圓明執行ら約30名で渡米しました。

 住職の聞真・ポール・ネエモン師は、アメリカに天台宗の教えを弘めようと95年に「カルナ・天台・ダルマセンター」を設立。アメリカ本土に初の開教拠点を設けられた先達です。アメリカ人を対象に坐禅止観や作務等を通じた修行の指導をし、宗祖伝教大師の御精神を伝えておられます。

 運営面など経済的に厳しい環境ではありますが、サンガメンバーと呼ばれる僧侶や信者らは普段はそれぞれ自らの仕事を持ちながら仏道修行に励んでおられます。  今回、長年修行されてきた2名が僧侶となる得度式に臨まれ、わたしは儀式の心構えや意義を説く説戒師を務めさせていただきました。

 なにぶん外国の方への説明は初めての体験です。英語に翻訳した原稿を配布し、わかりやすい言葉での解説に務めました。得度者以外の信者も、熱心に耳を傾ける姿を目の当たりにし、信仰心の深さに感銘を受けた次第です。そして戒師の獅子王執行から“おかみそり”を受けた2人からは僧侶として新たな人生を歩む覚悟を感じました。

 本堂落慶20周年法要で、日米の僧侶によって唱えられたお経は見事なまでに調和し、感動の中で法要を終えました。

 アメリカ本土に天台の法灯がともされてから30年。伝教大師のみ教えが着実に世界に弘がっていることを実感し帰国の途につきました。

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