天台宗について

The TENDAI Journal~天台ジャーナル~

天台ジャーナル 第264号

細野内局が初宗議会臨む
万博に魅力交流委員会が参加へ

 第百五十八回通常宗議会(大澤貫秀議長)が2月18日から20日まで開かれ、令和7年度通常会計予算11億8422万円余りを含む議案23件、報告3件を可決決定し全日程を終えた。

 2月1日にご上任された第二百五十九世天台座主藤光賢猊下、また細野内局が初めての宗議会に臨んだ。
 
 開会式で導師を務められた藤天台座主猊下は、「不惜身命率先教化にあたり、もって祖師先徳の鴻恩に報い奉る所存」と、改めて所信表明された。

 そして「戦争や紛争による分断の深まり、不安定な経済や政治の諸問題、また自国の利益を最優先にする風潮が世界的に見受けられます。

 今年で戦後80年を迎えますが、われわれ宗徒は平和への誓いを新たにし、宗祖大師の『忘己利他』『一隅を照らす』のみ教えを、道心をもって敷衍してまいらねばなりません」と“おことば”を述べられた。

 続いて、細野舜海宗務総長が執務方針を述べ、歴代内局が最重要課題としてきた「人材の育成」「教えの普及」「寺院の存続」の三本柱を掲げ、「宗祖大師様の目指した仏の教えによる国の繁栄と、人びとが幸せに暮らす社会を実現するために、必要な教団運営の指針として継承する」と表明した。

 令和7年度通常会計予算は、歳入歳出ともに11億8422万8千円。前年度より1699万7千円の減額とした。歳入では、寺院教会納金額一個数あたり270円で前年度から据え置いた。

 予算編成について細野宗務総長は「物価の高騰による経費の増加と僧侶数の減少による礼録等の収入減により、大変厳しいものであることがわかった」と緊縮予算となったことを報告した。

 また今宗議会では、長期的視点での宗務運営の方策を示すことは難しかったとも述べ「激変する社会情勢の中、問題意識を持つ機運は高まっており、何らかの方策を見出せるものと思う」と展望を語り理解を求めた。

 6月10日に奉修予定の第二百五十九世天台座主伝燈相承式については、臨時収納金として法人寺院教会より一個数あたり20円、非法人寺院教会より一律2千円を求めることが議決された。

 その他、臨時部に天台座主猊下の御座所改修工事費や伝教大師最澄1200年魅力交流大阪・関西万博事業天台宗拠出金など5科目を新設している。


声明公演など予定

宗祖伝教大師1200年大遠忌を機に立ち上がった伝教大師最澄1200年魅力交流委員会が、4月に開幕する大阪・関西万博へ参加することが細野宗務総長より報告された。

 滋賀県の魅力を発信する「滋賀県デイ~びわ湖サマークルーズ~」の中で、活動に参加する大学生による延暦寺の歴史等の紹介や、延暦寺一山と天台宗僧侶による声明公演が予定されている。
 
 細野宗務総長は「この行事等を通じて、伝教大師のご精神を世界に発信していきたい」と意気込みを話した。

素晴らしき言葉たち -Wonderful Words-

我々は他が自己の幸福のために、
己れの個性を勝手に発展するのを、
相当の理由なくして妨害してはならないのであります。

夏目漱石

 近頃自我とか自覚とか唱えていくら自分の勝手な真似をしても構わないという符徴に使うようですが、その中にははなはだ怪しいのがたくさんあります。

 彼らは自分の自我をあくまで尊重するような事を云いながら、他人の自我に至っては毫(ごう)も認めていないのです。

『吾輩は猫である』『こころ』など数多くの名作を残した文豪、夏目漱石が学習院で行った講演『私の個人主義』から抜粋しました。

 111年前の学生に語られた言葉ですが、現代を生きるわたし達に向けられているように思えてなりません。

 「多様性社会」という言葉が定着してきた昨今ですが、意識しすぎるが故の過剰な反応や細かい言論統制などその言葉に縛られた結果、不寛容さが目立つようになりました。それに対し、多様性の看板を下ろそうとする動きも見受けられるようです。

 日常生活においても、指導の意味を履き違えて他人の一挙一動を咎めたり、自分とは異なる考えを拒絶し、誹謗したりする人が周りにいませんか。

 自身の主義主張を通すには、他人の主義主張を受け入れなければ何も変わりません。

 仏教では「自他不二(じたふに)」という考え方があります。自分と他人は二つにあらず、お互いが繋がりを持って生まれてきた存在であり、他人を愛することで自分を愛することにもなるということです。

 逆を言うと他人を蹴落とす行為は自分を蹴落とすも同然と言っていいでしょう。自分にとって自分自身は大切にすべき存在であるように、相手にとっても相手自身が大切な存在なのです。

 見えない縁で結ばれたことで同じ世界に生きている人々の個性を、思いを、幸福を邪魔しないようにと考えることが、多様性社会への一歩なのではないでしょうか。

鬼手仏心

仏のことば

 自身の権力や立場の優位性を利用し相手に嫌な思いを与えたりするパワハラやセクハラなどの問題を最近よく耳にします。職場における嫌がらせや不当な言動は「いじめ」にも値します。

 これはパワハラではありませんが、わたしは50歳頃に医師から糖尿病の宣告を受けました。当時は26歳でタバコを止め70㎏の体重が90㎏近くになり、食事療法と運動を続けるよう助言された時はかなりのショックでした。
 その後、運動しても、なかなか痩せられずに困っていました。

 そんなわたしを見かねた妻が、食事療法に協力してくれました。その甲斐もあり、少しずつ体重は落ち、約15年かかりましたが28㎏の減量に成功しました。今年で70歳になりますが、体型維持を心掛けながら日々を過ごしております。

 医師からの言葉に、当時は嫌な思いを抱きました。患者を救うためにあえて厳しく宣告してくださったお陰で、今こうして元気に過ごせています。

 決して悪意で述べられたものではなく、相手を思いやる優しい言葉は仏のような慈悲深い心からだったと今では感謝しております。以上のように自分が出来ないので、辛く感じてしまうこともあります。しかし結果が出るとうれしい言葉となります。

 中には、自分がパワハラを受けていると思い込んでいる人もおられるでしょう。相手を敬い思いやりで接していると、自分の勘違いだと気づくこともあります。パワハラは絶対あってはならないことです。

 自分を後まわしにし、他を利する(忘己利他)考えを誰しもが持って人と接することが、パワハラ等をなくす手段だと思います。職場や組織において一隅を照らす活動が出来ることを願っています。

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