天台宗について

The TENDAI Journal~天台ジャーナル~

天台ジャーナル 第226号

慈愛の心で助け合い――全国一斉托鉢を実施

 天台宗では「伝教大師のご精神を現代に生かそう」と、毎年12月1日に全国一斉托鉢を実施しており、昨年も同日に行われた。この日を含め、全国各地の托鉢で寄せられた浄財は、一隅を照らす運動総本部の地球救援募金などを通じて、国内外の福祉活動等に活用される。

 全国一斉托鉢は、昭和61年に故山田惠諦天台座主猊下が先頭にたって浄財の勧募にあたられたことから始まり、今回で36回を数える。平成9年からは12月を『地球救援活動強化月間』と定め、「慈愛の心で助け合い」をスローガンに、全国にある教区本部や各部・寺院単位で続けられている。
 今では「師走の風物詩」として定着しており、全国各地で数多くの心が込められた浄財が寄せられている。

 比叡山坂本地区で1日に実施された托鉢には、水尾寂芳延暦寺執行はじめ、天台宗と延暦寺の役職員、延暦寺一山住職など約100名が参加。宗祖伝教大師生誕の地・生源寺で法楽を修した後、水尾執行が「人びとの幸せとコロナ感染症の不安解消を祈って、丁寧にお勤めしましょう」と呼び掛けて出発した。坂本地区の家々の戸口で読経しつつ行脚し、浄財の寄進を受けた。

 感染症対策を取りながらの戸別托鉢の他、駅頭ではJR比叡山坂本と京阪坂本比叡山口のみで実施した。

 この日の托鉢で寄せられた浄財は、NHK歳末たすけあい運動並びに海外たすけあい運動へ。その他の全国で実施された托鉢の浄財も、各地の社会福祉協議会や日本赤十字社、新聞各社、福祉施設などに寄託された。

素晴らしき言葉たち -Wonderful Words-

中觴縦遙情 忘彼千載憂 
且極今朝樂 明日非所求

《中觴(ちゅうしょう)遙かなる情を縦(ほしいまま)にし
彼(か)の千載(せんざい)の憂いを忘れん
且つは今朝(こんちょう)の楽しみを極めよ
明日(みょうにち)は求むる所に非ず》

東晋 陶潜(陶淵明)

「杯に酒を満たして超俗の気分を存分に味わい、あの千年の憂いを忘れてしまおう。まあまた、今日の楽しみを極めることにしよう。明日のことはあてにしないで」(『冬の詩一〇〇選 石川忠久』)


 陶淵明が西暦418年正月5日に友人と斜川に遊びに行き、その感慨を詠じた五言古詩「游斜川」の最後の四節です。正月の晴れやかな気分らしく、おおらかに締めくくられています。

 新型コロナウイルスによる災禍に苦しめられている現代、1600年前のこの詩に大いに共感し、その自由さをうらやんでしまいます。

 かつて私たちは、友達と大きく口を開けて笑いあったり、歌を歌ったり、食事を楽しんだり、行きたいところに気軽に足を運んだり、と日常を過ごしていました。しかし、そんな日々が簡単にコロナ禍によってくつがえされてしまいました。この2年間で感染のピークをいくつも迎え、そのたびに自粛をして息の詰まる思い、つらい体験をし、常に不安が私たちの心のなかにただよっています。

 私たちは普段はできるだけ死から目をそむけて生きています。不安は突き詰めると、死への恐怖、死にたくないという気持ちに由来するものですから、漠然とした不安がコロナ禍の社会の中で広まっていくことは当然です。

 しかし、だからこそ私たちが生きていること、今ここにあるということのありがたさに気づくこともできます。昨年も感染の波は何度も襲ってきました。そして感染が少なかった期間、常識を保ちつつ楽しまれた人も多かったことでしょう。感染の危険にさらされる状況を経験したからこそ、そうでない時のありがたみをかみしめることができるのではないでしょうか。

 新しい年が明けました。なかなか「彼の千載の憂いを忘れん 且つは今朝の楽しみを極めよ 明日は求むる所に非ず」の心地にたどり着けないかもしれませんが、本年が皆さまにとって憂いより喜びが大きくなりますよう願っております。

ページの先頭へ戻る