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サミットの歴史

比叡山宗教サミット3周年− 概要

(比叡山時報 第427号 平成2年9月8日)

中東問題 座主猊下は「武力の行使は絶対に許されない」と

 去る8月3、4日の両日比叡山宗教サミット3周年記念行事は、イラクのクウェート侵攻というショッキングなニュースが飛び交うなかで開かれ、山田恵諦天台座主猊下も歓迎挨拶の予定原稿を一部変更し「武力の行使は絶対に許されない」と、語気を強めて話されるなど、宗我を離れ、他人の幸せを祈り合う“行動する宗教者”の大切さを内外に印象づけたのだった。

平和への願い一致 クウェート侵攻に激怒

 8月2日午後5時、京都宝ヶ池のプリンスホテル・末広の間は、イスラム教代表を迎えての記者会見が始まるとあって、異様な空気がただよっていた。
 この日、世界を震撼(しんかん)させた「イラクのクウェート侵攻」という重大ニュースが飛び込んできただけでなく、当のイスラム圏から、イラクのクウェート侵攻を申し合せたようにイスラム教代表団が到着するとあって、会見会場の空気は熱くならざるをえなかった。
 当の11カ国からなるイスラム教代表団が所定の位置に着くのを待ちかねたように記者団の質問が始められた。
 「イラクのクウェート侵攻をどう思いますか」
 「私達は今日、宗教者としてここに来たのであって政治家ではありません。ムルタカ会議参加の全員が宗教者なのです」
 いうまでもなく、イスラム教では、宗教者は政治家としての顔を持てば、大学教授や商人としての顔を持っている。今回のムルタカ会議に代表として参加したイスラム教徒の中には、駐日大使として赴任直後の人もあれば、大学教授や医者そして事業家といった人もいらっしゃるだけに、記者の質問もその点を考慮しての言葉使いとなったが、ムスリムの代表者は、目的意識をふまえての来日、参会だったため、終始一貫、宗教者としての立場を貫いていた。
 「私達宗教者の立場から同じイスラム教徒が武力による侵攻、解決は絶対に許せない。幸いにいま、エジプトでアラブ圏の外相会議が開かれているので、当事国を含めて抗議の電報を打ちたい」
 イスラム代表の言葉が終るのを待ちかねたように記者団側から拍手がおこり、つづいて記者代表が「私達も共に湾岸地域の平和を祈ります。同時に、皆様方の宗教者としての活動を期待します」のメッセージに、イスラム代表団側も拍手でお返し。会見会場は立場を越えて平和への願いが一致した。
 代表団の一人は抗議電報の電文作製中に「自分のためにしか祈れないニセのムスリムがいることはイスラム教のハジだ」ともらした意味深長な言葉は印象的だった。

抗議の決議を緊急採択

 ムルタカ比叡山会議出席イスラム教代表団の名前で国連本部をはじめ、両当事国やエジプトで開催中の外相会議などに打電された抗議電文をもとに、ムルタカ会議決議文が満場一致採択された。提案し、採択へ議事をすすめていった杉谷義純ムルタカ会議議長にテレビカメラの砲列は一斉に向けられていた。
 当初、ムルタカ会議は3周年を迎える比叡山宗教サミットの記念行事であるため、比叡山宣言を再確認しその精神に拠ってイスラム教との出会いを求め、世界平和に共に貢献しようとするため、一切の宣言文、決議文は用意されていなかった。
 しかし、抗議電報が打電されたことを会議の席上、進行役だった即真延暦寺副執行から紹介された時、広い会場は拍手の嵐に埋ったことは、決議文採択への期待表明ともなったのだ。
 決議文の採択は、ムルタカ会議や比叡山宗教サミット3周年の立場を内外に表明する結果ともなった。
 「ムルタカ会議はイラクのクウェート侵攻によって助けられましたネ」と、不穏当な言葉を投げつけてくる宗教者もいる。しかし、たまたま時間が一致しただけで、両国の緊迫した情勢は誰もが知っていたことだし知っていればこそ、基本的にムルタカ会議が企画されたのである。
 戦争は国の利害の名のもとに始められ、自国の人々をも結果として犠牲を強いるのである。しかも、犠牲を強いられる人は常に弱い立場にある人達でもあるのだ。比叡山宣言もその点にふれ「宗教者は常に弱者の味方である」と。さらに、ムルタカ会議はまた、祈りとは自己の利害のために祈ることではなく、他人の幸せのため祈ることであることも併せて教えてくれた。

座主ご挨拶 平和の原点は寛容

 昨今の世界情勢をうかがいますと、大国間の対立は解消されつつある反面、地域紛争が頻発して無抵抗な人達、特にいたいけない子供が常に犠牲の頂点にあり、加えて今回のイラクのクウェート侵攻は絶対に許せることではなく、新たな犠牲者が生れることは悲しい限りでもあります。
 このイラクの不法侵攻で注目されるイスラム教について「イスラム」とは神に身をゆだねることと聞きます時、やはり人々の幸せを願い平和を祈る点、私共と相異のないことを知るのです。
 しかし、“目には目を”の報復主義、偶像否定から来る仏教遺跡の破壊など、恐怖の印象が日本人に植え付けられ、それがためイスラム教への無知を招き、誤ったイスラム教観が日本人を支配してきました。
 また、仏教は互いの立場を認めあう寛容の精神を基本とし、この寛容の精神こそが平和の原点でもあるのです。この寛容の精神を忘れていたこともイスラム教への無知を招いたともいえます。
 いま、平和の原点である寛容の精神にたちかえり、今回の“出合い”に始まるご縁を大切にし、比叡山宗教サミットでの比叡山宣言にもとづき、友好・平和の道を大きく育てたく存じます。

要旨

ムルタカ比叡山会議 決議文

 京都における「ムルタカ比叡山会議に出席したイスラム宗教代表者並びに日本の宗教者一同は、イラクとクウェートとの武力紛争のニュースに大変衝撃を受けている。
 我々はここに平和の祈りのために集まり、この会議を通じて対話の道を広げ、世界平和を目指している現時点で、この事件は、我々が進めている世界平和への運動にとって、大きな障害と言わねばならない。
 イラクとクウェートの両政府は、この武力紛争を即時に停止し、すみやかに、お互いに交渉のテーブルにつくことを要請する。
 我々宗教者は、いかなる事態に立ち入ろうとも、武力による紛争解決には賛成できない。 「ムルタカ比叡山会議」の名において、両当事国は勿論、他のイスラム諸国並びに国際連合はじめ、関係機関にこの紛争を平和裡に解決すべく、あらゆる措置を即座に講じることを要望する。

<要約>


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