天台座主猊下 年頭ご挨拶

年頭のご挨拶

天台座主 大樹孝啓

皆々様におかれましては、つつがなく新しい年をお迎えのことと存じます。

 さて、昨年11月22日には先の天台座主森川宏映猊下が御遷化なされました。高潔、円満なるご人徳によって人望を一身に集められ、天台宗の住職等々が、いずれも大変お世話になり薫陶を受けたものでございました。今や幽明、境を異にして謦咳に接することは出来ませんが、存日の温客今なお彷彿として我が胸に在ります。まだまだ私どもを教え、導いて頂きたかったという思いで一杯でございます。謹んで哀悼の意を捧げます。

 第二期を迎えた祖師先徳鑽仰大法会の掉尾を飾る宗祖伝教大師一千二百年大遠忌が、昨年6月4日に御祥当を迎え、その前後を含め3日間にわたって比叡山延暦寺大講堂にて大法要が執り行われました。感染症蔓延防止のため、宗内はじめ縁故宗派の諸大徳による出仕並びに随喜のご案内は遠慮させていただきましたが、映像配信を通じて檀信徒のみなさまにも報恩の心を寄せていただけたかと存じます。また総本堂根本中堂大改修事業につきましても、天台宗内外からのご支援を賜り順調に推移しておりますこと大変有り難く存じております。

 更に昨秋には、特別展「最澄と天台宗のすべて」が東京国立博物館平成館で開催されました。総本山におきましても伝教大師の教えを伝える象徴ともいうべき『戒壇院』、『法華総持院東塔』の特別拝観が行われ、多くの皆さまに仏縁を結んでいただけたことと存じます。今後、五月までに九州、京都の各国立博物館で特別展が開催されます。貴重な宝物展示などを通じ、伝教大師様の御心や教えに触れていただきたく思います。

 一方、世相を顧みますと新型コロナウイルスの猛威は止むこと無く、世界中で多くの方が犠牲となられ、連日にわたり感染者数を伝える報道に心を痛めておりました。また自然災害も多発しております。お亡くなりになられました方々に謹んでお悔やみ申し上げます。その最前線で治療に当たっておられます医療従事者の方々にも大変なご苦労をかけておりますことに、改めて感謝申し上げる次第です。

 日本を浄仏国土にしようと目指された伝教大師は、菩薩僧の育成に心血を注がれました。その菩薩をつくるためには、『布施、持戒、忍辱、精進、禅定、智慧』の六行が必要です。

 六行は布施の行から始めますが、布施の最初は『和顔愛語』で、終局の目標は『忘己利他』であります。「自分のことは後回しにして、人の幸せのために尽くす」。そういう気持ちを持つ努力を続けると、慈悲心が芽生え互いを尊重しあえる社会が生まれるのです。

 これは人間界だけに限らず、自然界に対しても畏怖の念を抱き「共生」することで、環境問題にも解決の道が開けます。

 地球上のあらゆる生命が、安全に過ごせるように、世界の平和が一日も早く到来することを望みます。そして、すべての人びとが安寧ならんことを祈念申し上げて新年のご挨拶といたします。

 令和4年正月

天台座主 大樹孝啓

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