現在のページ:トップページ > 天台座主猊下新年ご挨拶[2025]
新年明けましておめでとうございます。
皆さまにおかれましては、新しき年をつつがなく迎えられたことと、お慶び申し上げます。
昨年は十年ぶりとなる「山家潅頂会」が延暦寺にて執り行われ、伝教大師以来の伝統が脈々と受け継がれました。また、一千年余の歴史をもつ八坂神社での祇園御霊会が「八坂礼拝講」として再興、日吉大社、北野天満宮、平安神宮など、神仏の祈りをもって世界の平安をお祈りする古儀が現代に示された年ともなりました。洵に有難いことであります。
全国各教区ではそれぞれ一隅を照らす運動や教区の様々な大会・研修会が開催されるようになり、一般の皆さまへの啓発の場も徐々にコロナ禍前に回復してまいりました。叡山講福聚教会も東京浅草寺を会場にお借りして東日本研修会が、久留米市では西日本大会が盛大に開催されました。そして祖山延暦寺での檀信徒会、伝道師会等の参拝研修が行われ、何よりも各教区寺院による祖山団体参拝が、少しずつ増えてきたことは、伝教大師さまをはじめ天台のお祖師さまのみ教えを体感し、ご先祖さまに感謝する大切な機会がそれだけ多く檀信徒の皆さまに与えられることであり、大変喜ばしい限りであります。是非本年も昨年以上に勧めて増やしていただきたいものです。
一方、世界ではロシアのウクライナ侵攻が続いており、イスラエルと周辺諸国による対立戦争に他国も介入し収束の目途が立ちません。憎悪と報復の連鎖によって、多くの方々が犠牲となられ悲しみを生んでいます。更には、昨年元日に発生いたしました能登半島地震は、自然災害が予期なく発生して私たちの日常生活を一瞬にして奪うことを見せつけるものでした。しかのみならず、様々な社会的要因を背景とする自死の増加など、尊い生命が日々失われております。まさにお釈迦さまが説かれた末法の世を呈しているようにも思えます。
しかし乍ら、此度の能登半島の震災では、天台宗でも多くの支援の心が寄せられました。被災地への支援金はもとより、防災士を中心に支援活動の輪も広がっております。目の前の困っている方に手を差し伸べる心こそは最澄さまのお心だと、とても嬉しく思います。
私は齢百を数え、今こそ伝教大師の「己を忘れて他を利するは慈悲の極みなり」のお言葉を、お心を、世界中の人々に届けたいと切に感じております。相手の幸せを願う慈しみの心、相手の不幸や悲しみに思いを馳せ寄り添う心、この心があれば戦争はきっと起こらないでしょう。天台大師、伝教大師の教えを汲む皆さまには、今年一年は何卒「忘己利他」の精神を持ってお過ごしください。
私たちの歩みが世界を安穏に導くものであると信じております。
世界中の皆さまのご多幸を祈念し、新年の挨拶といたします。
令和7年正月
天台座主 大樹孝啓