天台座主猊下 新年ご挨拶

新年のご挨拶

天台座主 大樹孝啓

新年明けましておめでとうございます。
皆様におかれましては、つつがなく新しい年をお迎えのこととお慶び申し上げます。

 私自身は天台座主として二回目の元旦を比叡の御山でお迎えし、お陰様で数え百歳を迎えることが出来ましたことは誠に有難きことであり、神仏祖師先徳のご加護はもとより宗徒の皆様のご助力によるものと心より感謝申し上げます。

 昨年五月、古式に則り奉修されました「傳燈相承式」では、歴代座主が記帳された「相承譜」に署名をいたしました。改めてその歴史の深さと伝燈の重みを痛感し、座主としての務めを果たすことを宗祖大師にお誓い申し上げました。
 また十月には法階継承の最重要の古儀のひとつである別請豎義が行われ、新探題に堀澤祖門大僧正、新已講に清原惠光大僧正、更に新擬講には神原玄應大僧正をそれぞれ補任いたしました。誠に御同慶の至りであります。

 さて、伝教大師ご遷化一千二百年目の昨年は、先年の東京に続き、九州・京都の両国立博物館で特別展「最澄と天台宗の全て」が開催され、秋には延暦寺においても国宝殿開館三十周年を記念し「比叡の霊宝」として、宗祖にまつわる宝物が里帰りを果たしました。また聖徳太子千四百年御聖忌を記念し太子所縁の椿堂を初めて御開扉いたしました。多くの人々に比叡の歴史と宗祖の尊き「お志し」に触れていただいたことを嬉しく思います。
 総本堂根本中堂大改修事業につきましては、約一年九ヵ月工期が延長されることとなりましたが、お陰様で工事は順調に推移しており、内外からお寄せいただいております多くのご支援に心より感謝申し上げます。少しずつ美しく蘇る様子を拝見し、大変嬉しく思っております。

 また、八月に開催された、比叡山宗教サミット35周年記念「世界宗教者平和の祈りの集い」には海外から参加の宗教指導者を含む約八百名が国立京都国際会館と比叡山に集い、地球規模の課題となった「気候変動」に対し、信仰を持つ者が果たすべき責務について対話し、共に祈りを捧げることが出来ましたことは誠に尊いことでありました。
 他方で、豪雨や地震などの自然災害も国内外で頻発しております。また終結の兆しが見えないロシアによるウクライナ軍事侵攻。民主主義を根幹から揺るがす非道なテロ行為。未だ多方面に影響を及ぼしているコロナ禍など、これほどまでに私たちの心を痛める出来事が続くとは思いもよりませんでした。まことに深い悲しみを覚えるものです。

 しかしながら「平和の祈りの集い」の当日、祈りの会場を襲った突然の強風と大雨、さらにごく間近に落ちた雷の耳をつんざく轟きと地響きは、我々に対する神仏の鼓舞激励と感じ、心が震えるような想いを抱きました。
 大きな気候変動とコロナ蔓延の最中に迎えた伝教大師一千二百年大遠忌ではありましたが、むしろ我々一人ひとりが為すべき事をじっくりと考える時間を与えてくださったようにも思います。最澄さまの「努めよ努めよ」とのご遺戒を体し、地球上のあらゆる命が生き生きと幸せに暮らすことが出来るよう共に祈りを捧げてまいりましょう。

 皆様のご多幸を祈念し新年のご挨拶といたします。

 令和5年正月

天台座主 大樹孝啓

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