天台宗について

The TENDAI Journal~天台ジャーナル~

天台ジャーナル 第234号

比叡山宗教サミット35周年記念「世界宗教者平和の祈りの集い」―環境負担の軽減・削減に努力を誓う―

 比叡山宗教サミット35周年記念「世界宗教者平和の祈りの集い」(主催・同実行委員会)が8月4日、国立京都国際会館並びに比叡山延暦寺を会場に開催され、「気候変動と宗教者の責務」の大会テーマのもと、宗教者らのべ約800人が参加した。午後からの比叡山上での「世界平和祈りの式典」は、天候急変により予定を繰り上げて終了したが、気候変動への宗教者が果たすべき役割について語り合い、『比叡山メッセージ2022』を世界に向けて発信した。

 世界各地で、今なお戦争や紛争が絶えないが、同時に地球上の至るところで自然災害が多発している。それは温室効果ガスの増加に起因するとされ、人間を含む全ての動植物の生存そのものを脅かしつつある。今回の比叡山宗教サミット35周年記念「世界宗教者平和の祈りの集い」では、全ての生命の拠り所である地球及びその環境保持を願い、大会テーマを設定。宗教者が率先して行動し、実践を呼び掛けることを誓う場とした。

 国立京都国際会館では、午前10時から「開会式」を開始。実行委員会委員長の阿部昌宏天台宗宗務総長が開会挨拶に立ち「記念講演やシンポジウムから提言を賜ると同時に、解決方法を模索する機会にしたい。そして私たち宗教者が率先して実践し、この成果を世界に発信して参りたい」と、今サミットの意義を強調。ローマ教皇フランシスコ聖下からも、趣旨に賛同する期待を込めたメッセージが寄せられた。

 続いて、多摩大学学長の寺島実郎日本総合研究所会長が「歴史的大転換期における宗教―心の回復力(レジリエンス)を求めて―」と題し記念講演。また薗田稔秩父神社宮司、竹村牧男東洋大名誉教授、フィジーのジェームズ・バグワン太平洋教会協議会事務総長、デスモンド・カーヒルアジア宗教者平和会議実務議長ら4名をパネリストに迎え、テーマにそったシンポジウムがあり、真摯な議論が交わされた。

 午後からは、比叡山延暦寺一隅会館前広場に会場を移し、「世界平和祈りの式典」を挙行。次代を担う若手宗教者6名による初回に発表された『比叡山メッセージ』の朗読に続き、のべ約500人の宗教者らが、平和の鐘の鐘打に合わせて平和を祈り黙祷を捧げた。

 主催者を代表し挨拶された名誉顧問の大樹孝啓天台座主猊下は「環境問題は現代文明の当然の帰結とも言われ、危機的気候変動にみられるごとく、その影響は地球に存在するすべての生き物に及ぶこととなる。この厳しい現実を前にして、私たち宗教者は気候変動に苦しむ人々に寄り添ってその支えとなり、問題解決のためには信徒等と協働して積極的に対処することが求められている。宗教活動や生活のあらゆる分野で環境負荷の軽減・削減に積極的に努力し、併せて神仏の大いなるご冥助(みょうじょ)を切に祈ってまいりたい」と述べられた。

 この挨拶途中に天候が急変。激しい雷雨の中にも関わらず力強い口調で語りかけられた大樹名誉顧問に会場から拍手が送られた。この後に予定されていた各宗教別の祈りなどのプログラムは行うことができず、最後に阿部実行委員会委員長の呼びかけで再度黙祷による祈りを捧げ予定を繰り上げての閉会となった。

 なお『比叡山メッセージ2022』は、天台宗公式ホームページなどで公表、関係者らに文書を郵送し発表に代えた。
https://www.tendai.or.jp/summit/index.html

素晴らしき言葉たち -Wonderful Words-

平和の鐘は 君の胸に響くよ

仲里幸広

よみがえれ あの時代(とき)へ
武器を持たぬことを伝えた 先人たちの声を
永遠(とわ)に語り継ぐのさ

 第二次世界大戦の沖縄戦を題材に作られた楽曲『HEIWAの鐘』は、22年前の7月に行われた第26回主要国首脳会議、通称九州・沖縄サミットで紹介されたことで注目を集めました。その後合唱曲にアレンジされ、今日まで多くの学生に歌われてきました。鐘の音を表現した前奏から始まり、琉球音階を取り入れられた流麗な旋律と心優しくも力強いメッセージ性を持つ歌詞に、歌っている側も聞いている側も胸を打つものがある曲となっています。多種多様な情報に溢れ、そこから何を選びとるかを個人の価値観に委ねられている現代社会ですが、その中にも多くの人の心に根ざしていて欲しい精神というのは少なからずあるはずです。

 伝教大師最澄さまは晩年、「我がために仏を作ることなかれ、我がために経を写すことなかれ。我が志を述べよ」という言葉を弟子達に残しています。仏像を掘ったり経典を写したりする事は功徳の高い行為とされていましたが最澄上人はその事を禁じたのです。そのような行為よりも教えを後世に伝えていく事が重要であるし自身の思いでもあると弟子達に託しました。

 本紙で特集している比叡山宗教サミット35周年「世界宗教者平和の祈りの集い」についても、35年前に比叡山上で発された、祈りを通して宗教者として、ひいては人類として世界に何が出来るのか問い続け実践していくという意志は、絶えることなく永遠に語り継いでいってもらいたいものです。 未だ混迷を極める世界の中にいる私達だからこそ、語り継がねばならない事はあるのではないでしょうか。

君が 一人たてば
変わるのさ 明日へ輝いて
ずっと 未来の夢を ここに残してゆこう
ぼくらの生まれたこの地球に奇跡を起こしてみないか

鬼手仏心

三災を生きる

 8月、コロナ禍は終息せず、豪雨が列島を襲っている。世界各地でも豪雨・洪水被害、異常な高温・乾燥に起因した大規模な自然災害が伝えられている。ウクライナを含む各地の武力紛争も継続して、解決の見通しは立ちそうにない。今日の我々を取り巻く情景は不安感・不透明感が支配的で明るい未来展望が描きにくいように思えてならない。

 比叡山宗教サミット35周年記念「世界宗教者平和の祈りの集い」も年初から8月4日開催を期して、テーマ「気候変動と宗教者の責務」に向けて準備してきた。しかし、当日午後の「平和の祈り」直後、雷雨に制せられて中断、散会を余儀なくされた。気象変動の激しさの厳しい現場になった。

 仏教では、世界は四期に循環する中に「大小の三災」を説き、伝教大師も『願文』中に、往時の世相などを「三災の危うきに近づき、五濁の深きに没む」と記されている。「小の三災」は住劫期の刀兵災、疾疫災と飢饉、「大の三災」は壊劫期の火災、水災、風災とされている。飢餓報道は絶えず、熱帯低気圧の巨大化は風災を呼び、コロナ禍は疾疫災となる。水害(災)も頻発、武力紛争は刀兵災にあたる。気候変動の激化による環境破壊の進行は水・火・風の災害に直結し、種々の紛争、飢饉や疾病の縁由・原因となり、また、環境問題の多くは人間に起因し、超巨大な人災ということになるであろう。

 「生きとし生けるもの」の生存環境が危殆(き たい)にひんするなか、我々宗教者は、その責務として神仏の冥助を願いながら、環境の改善を目指して、すべての人々と協働して日々の生活に確かな問題意識を堅持し、努力したいものである。

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