回答

Q 日本人にとって宗教とは何でしょうか?
A

 世界中には、様々な宗教が存在し、歴史の流れの中に生き続け、それぞれの国や民族の生活や文化と切り離すことのできないものです。

 宗教という言葉は英語の「religion」の訳語です。明治時代の初めに、外交文書における「religion」という言葉を宗教と訳してから、広く使われるようになりました。「宗」とは、「要」であり、尊ばれるもの、主となる考えという意味です。

 文化庁が平成18年12月31日現在として発表した「宗教統計調査」によると、国民の約51.1%が神道の、42.7%が仏教の、1.5%がキリスト教の、4.7%がその他の諸宗教の信者であるという数値が出ています。


全国社寺教会等・信者数 平成19年12月31日現在

宗教 信者数 割合
神道系 105,824,798 51.2%
仏教系 89,540,834 43.3%
キリスト教系 2,143,710 1.0%
諸教系 9,086,268 4.4%
合計 206,595,610 100.0%

文化庁の『宗教統計調査』より
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/001/index39.htm

 古来より日本では、神仏は調和するものであり、10世紀頃から神仏習合というようになりました。神道と仏教とは相互排他的な宗教では決してなく、融合することで日本独自の発展を遂げたといえるでしょう。

 実際、お家に神棚と仏壇を祀ることが多く、大半が両方を崇敬していると答えているため、この数字は特定宗教に対する信者比率の実態を表していません(ちなみに、神道・仏教・キリスト教・諸宗教の信者数を合計すると2億人を超え、日本の総人口の約1.6倍になってしまいます)。

 日本人は、宗教に関して「多宗教で無宗教」と言われることがあります。お正月は神社仏閣に初詣、2月は節分やバレンタインデー、3月と9月はお彼岸、8月はお盆、12月はクリスマスに大晦日、収穫の秋には七五三、五穀豊穣に感謝して秋祭りを行っています。そして、これらに赤ちゃんのお宮参りをはじめとする冠婚葬祭が加わります。これらは、神道、仏教、キリスト教などに、様々な宗教に由来する行事です。

 日本人は、様々な文化的かつ宗教的な事柄を生活の中に受け入れる寛容さを持っています。これは他国にはあまり見られない大きな特徴です。日本人は他の国の人々から「多宗教で無宗教」であると見られることがありますが、日本人の宗教観は文化習俗的な意味合いが強いということが言えそうです。

 さて、日本人に「あなたの宗教は何ですか?」と尋ねると、「私は無宗教です」とか、「特定の宗教や信仰を持っていません」と答える人がいます。しかし、だからといって日本人は無神論者かというと、そうではありません。

 日本人は、家族、親戚、ご近所、地区、自治会、町村といった地域共同体の結びつきによって、助け合いながら生活を営んできました。また、「うちは◎◎宗で檀那寺(菩提寺)は○○寺である。□□神社の氏子である」という認識のもと、神事・仏事の年間行事に参加することを通してご先祖様が崇拝され、大地や海川の恵みに感謝し、大自然や偉大なものに対する畏敬の念が知らず知らずのうちに身に付いてきたのです。さらに日本人は吉日や験(げん)といった縁起担ぎがとても好きです。

 そんな、日本人が受け継いできた、八百万(やおよろず)の神々とご先祖様への崇拝をベースとした生活文化や行動をグローバルな視点で考える時、むしろ信仰心は篤いと言えるのではないでしょうか。

 明治維新により、神仏分離が国家によって打ち出されました。さらに、戦後、アメリカをはじめとする欧米文化がどっと流入し、日本文化と融合して定着しました。そして反面、核家族化、住宅事情の変化、交通・通信手段の多様化により、個人主義が台頭し、地域共同体が崩れ、年中行事も信仰色が薄められています。お盆や正月も長期の休暇と考える傾向です。しかも、公教育では宗教的情操の指導もほとんどなされません。

 宗教の大切なところは、自分の拠り所となる、人間としての生き方の規準を持つことです。日本人の拠り所は、神仏を大いなる存在として認め、祈り、そのお導きに従って、自分の人生を歩むことです。これは本当に、世界に誇るべき日本人のすばらしい伝統であり、日本人の健全性の基盤といっても過言ではありません。

 複雑な現代社会にあって心の豊かさを取り戻すことが叫ばれています。自分だけが良ければいいという利己主義ではなく、お互い様や共生の精神が不可欠です。今こそ改めて宗教を考え、次代へ良き日本の伝統や文化習俗を次代に伝えるためにも、宗教心を日常生活に生かすべきではないでしょうか。