回答

Q 仏事の後にいただくお斎(とき)にはどのような意味があるのですか?
A

 お斎(とき)とは、今では広く仏事の際にいただく食事をさしています。しかし、斎という言葉には「つつしむ」という字義があり、本来は身を慎んで清浄な生活をおくることを意味します。また「斎戒」(さいかい)ともいいます。

 もともとインドの仏教では、出家者は正午を過ぎてから食事をしないという戒律があり、食事をつつしむのが斎の由来となるわけですが、それが転じて正午以前に供養される食事を斎というようになり、これがさらに広く解釈されて仏事の際の食事をも意味するようになったのです。

 仏事において一番に心掛けることは、一同で故人を偲ぶことでしょう。普段はなかなかお付き合いのできにくい遠方の方々と交わり、故人のことを語り合うとき、食事の席は好適です。便利になった現代と異なり、昔は食事を差し上げること自体が大切なおもてなしでした。そのような心情は、お斎の席でよく耳にする「故人への供養だから」という言葉にも通じるのでしょう。

 このように、本来、身を慎んで修行することに由来するお斎ですから、その席での心掛けもおのずと定まります。招く側も招かれる側も、少々の不手際をあげつらったりするようなことでは元も子もありません。

 伝教大師は、弟子達に「道心の中に衣食あり、衣食の中に道心なし」という言葉を残されました。物質的な要求を優先するのではなく、仏道を求める心掛けの中にこそ、生活するうえで必要なものも自ずとついてきて、心の平安も得られる、とおっしゃったのです。

 ともすれば「衣食足りて礼節を知る」のが我々であるかも知れませんが、少しでも心を改め、優れた先達(せんだつ)の言葉に耳を傾ける席にしたいものです。