天台座主猊下新年ご挨拶

新年のご挨拶

天台座主 森川宏映

新年明けましておめでとうございます。
本年が皆様方により良い年となりますようご祈念申し上げます。

 昨年比叡山では、玉体安穏鎮護国家を祈る「御修法大法」が復興一〇〇年を迎えました。開山以来続けられてきた最重要厳儀が、檀越のお支えはもとより歴代座主をはじめ宗内諸大徳のご尽力によって節目を刻む事ができましたことは誠に有難いことでした。また、秋には神仏習合の儀式「北野御霊会」が五五〇年ぶりに北野天満宮様の発願により復興されました。導師をつとめ天満様に祭文を奏上し、威光増益・厄難消除の祈りを捧げることができたのは感激の極みでありました。

 ただ、過ぎし一年を顧みますと、新型コロナウイルス感染症が世界中を席巻し目に見えぬ恐怖に苛まれた一年であり、日本においても猛威を振るう事態は正に国難でありました。未だ終息の兆しは見えず、今も多くの尊い命が失われ大勢の人々が重い症状と後遺症に苦しんでおられます。医療関係者にも大変なご労苦をかけています。また仕事や学校など外出は制限され、触れ合いやコミュニケーションが失われ、経済も大きな打撃を受けました。またそれらを要因とする自死も大幅に増加していると聞きます。
 不安と悲しみは不満や怒りに変わり、怒りは絆を壊し、人々を分断し孤独を与えます。しかしながら、打ちひしがれるばかりでなく、上を向いて共に励まし合い、この事態に立ち向かい、新しい取り組みにも挑戦し前向きに懸命に務めを果たしておられる人々に想いをいたすと、心からの敬意と明るい希望をもって早期終息と人心安寧の祈りを捧げることができます。

 宗祖大師千二百年の祥当年であります本年は、六月四日御命日の大遠忌報恩法要をはじめとして、不滅の法灯全国行脚、教区団参、縁故教宗派法要など関連行事が執行されます。大師は御遺戒として「我れ、心形久しく労して一生ここに極まる」と述べられ「我が為に仏を作る勿れ、我が為に経を写す勿れ、我が志を述べよ」と仰せになりました。大師が文字通り身命を賭して取り組まれた「志」とは、この国をこの世界を、み仏の慈悲に目覚めた人=「菩薩」の働きによって美しく浄らかにすることであります。一人ひとりが生まれながらに持ち合わせているほとけ心に目覚め、命の大切さに気付き、他の幸せを願う心が沸き起こる。さすれば自他共々、真に安らかな光に包まれるのです。

 我々天台宗徒は五十年に一度のこの勝縁に際会することを喜び、改めて自ら「道心ある人を名づけて国の宝となす」との祖意を深く体し、「己を忘れて他を利する」の精神を広く伝え、「一隅を照らす」人物が充ち満ちる国づくりに邁進しなければなりません。わたしもより一層の精進・努力を傾けてまいります。大師の鴻恩に報いるため共に努めましょう。

 本年の大遠忌の無事円成と現在の疫難が除かれんことを祈念して新年のご挨拶といたします。

 令和3年正月

天台座主 森川宏映

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