新型コロナウイルス感染拡大について

新型コロナウイルス感染拡大に関する声明

天台宗宗務総長 杜多 道雄

 新型コロナウイルスで、お亡くなりになられた方々、ご遺族の皆様に謹んで哀悼の意を表しますとともに、罹患されている方々、不安で辛い日々を過ごされているすべての皆様に心よりお見舞い申し上げます。

 また、未知の目に見えない新型コロナウイルスの恐怖と闘いながら、日夜、治療や防疫に奔走されておられる皆様に深く敬意を表します。

 新型コロナウイルス感染防止策として、最近、世界各国で「社会的距離」という考え方が定着し始めましたが、関わりすらも減らすという意味ではありません。人同士の物理的な距離をとりながらも、関わりは続け、そして個人でも、地域でも、国家でも連帯して未曾有の「コロナ禍」に立ち向かっていかなければなりません。

 しかし、新型コロナウイルスが世界的に猛威を振い、いつ終息するか分からない「見えない恐怖」との闘いが続き、人々は不安と恐怖に苛まれています。過剰な恐れや適切とは言い難い行動は、新たな混乱や社会の分断を生み出しています。それが過剰な『自助』となり、周囲の人々と分け合い、助け合う『共助』を妨げています。また、差別や偏見を助長し、心ない言動で多くの人が傷つき苦しんでおります。

 今重要なのは利他の精神ではないでしょうか。伝教大師は、利他を実践する菩薩僧こそが護国の良将であり、国家の大災を防ぐ力を持つと述べられ、比叡山にて菩薩僧の養成に心血を注がれましたが、それは僧侶に限ったことではありません。国民一人ひとりが菩薩僧としての自覚を育み、利他の精神を持つことを願われました。そして、出家の菩薩と在家の菩薩がそれぞれに手を取り合って、世の中をよくしていこうと努力することが大切だと考えられました。

 生きとし生けるもの全てが、安定と調和を保持し、平和で安心して心豊かに暮らせる社会すなわち「仏国土」建設を目指された伝教大師は、そのために宝とすべきは「道心」であり、その究竟の有り様は「忘己利他」の実践に他ならないことを一千二百年以上も前にお諭しくださっておられます。

 今こそ、「願わくは、一人だけ解脱するのではなく、一人だけ安楽な結果を得るのではなく、生きとし生けるすべてのものとともに、仏の悟りを得て、仏の悟りの素晴らしさを味わいたい」との伝教大師のご誓願を体して、「忘己利他」「一隅を照らす」の旗印のもと、全ての人々が助け合い支え合ってよりよく生きることのできる社会が一日も早く到来するよう、心を合わせて力を一つにし邁進してまいりましょう。

令和二年四月十七日
天台宗宗務総長 杜多 道雄

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