東日本大震災における天台宗の取り組みについて

天台宗の支援活動

阪神・淡路大震災での経験をもとに兵庫教区仏教青年会

 この度、東日本大震災の第一報を聞き、私たち兵庫仏青は胸が締め付けられる思いでした。十六年前に受けた阪神・淡路大震災の傷が、トラウマとして明確に私たちの心の奥底に存在しており、体が震えるのと同時に、脱力感を覚えたのです。

 しかし、当時、茫然自失のなか、多くの方々から物心両面の支えを頂戴したことを思い、被災経験を持つ私たちならではの、被災者に寄り添った活動を検討し、行動を起こすことにしました。

 まずは後方支援として托鉢を行い、義援金を呼びかけていましたが、やはり阪神・淡路大震災の時に、自身が汚れるのも厭わずにお寺の片付けをしていただいたことや、電気、ガス、水道が止まって生活がままならぬなか、炊き出しをしていただいた御恩を忘れることができませんでした。そこで、直接現地で支援活動を行い、またその活動を多くの方々にお伝えすることで更なる後方支援につなげていくことにしました。インターネットなどで情報収集してみると、3月下旬の段階で、県外在住のボランティアを受け付けている自治体は少なく、行き先は限定されていました。募集内容も県外在住の場合は個人参加よりも団体参加の方が、望まれているように感じました。そこで、私たち兵庫仏青は、元々多くの会員が現地での活動を希望し、団体と個人の両面からボランティア参加を模索していたこともあり、20人以上、バスでの参加が条件である宮城県災害ボランティアセンター募集のボランティアバスパックに、5月17日・18日という日程で申し込みました。日程の都合上、兵庫仏青の参加は13人に止まったので、全国の仏青に協力を要請したところ、遠方にもかかわらず西日本から滋賀仏青1人と四国仏青3人、またご自身が被災されているという厳しい状況にありながら陸奥仏青3人と北総仏青5人から参加表明を頂戴しました。結果、バス運転手を含めて総勢27人と、募集条件を満たすことができ、活動場所はボランティアセンターの指示によって気仙沼市となりました。

5月17日 ボランティアセンター担当者から説明を受ける

 報道で見てはいましたが、実際に現地で阪神・淡路大震災と比較してみると、被災範囲の広さと酷(ひど)さに慄然としました。地震そのものの被害は阪神・淡路大震災の方が大きいと感じましたが、私たちの時にはなかった、津波による甚大な被害に圧倒されました。報道の通り、街が荒野と化し、異臭を放ち、家があった場所には土台しかなく、誰の物か分からぬ瓦礫が重なり合っていました。私たちが16年前に焼け野原となった神戸の町を見て流した涙を今、比較にならないほどの被害を受けたこの土地の人々が流しているかと思うと、居ても立ってもいられない心境になりました。

 現地では2班に分かれ、それぞれ被災家屋内の泥掻きや側溝清掃、瓦礫撤去といった作業をしました。なかでも2日目の現場となった、気仙沼港対岸の大浦という町で、海沿いの小高い丘の上、200坪程の畑に散乱する瓦礫を撤去したことが、特に印象に残っています。そこには、バラバラに壊れた家屋の外壁や、大人数人がかりでようやく持ち上がるほどの鉄の梁などが、無数に散乱しており、津波の計り知れない力に唖然としました。現場では、チェーンソーを用いて瓦礫を小さくしたり、切断できない大きな瓦礫を、ロープで丘の上から岸壁の集積所に引きずり下ろしたりと、足場の悪いなか、緊張を伴う作業が続いたので、怪我をしないように注意が必要でした。

[1]~[6]屋内清掃。荷物の持ち出し、泥掻き、床の清掃。

 また、被災者とのやりとりでは、初日の作業終了時に依頼者と握手した際、あまりに強く握られたので、何か気に障ることでもしてしまったのかと顔を見ると、目にいっぱいの涙を浮かべておられました。そして目が合うと、無言でさらに強く手を握られたことが、深く心に残っています。私たちが当初から考えていた、被災者の側に寄り添うということで、言葉にせずとも通じ合える確かな何かを感じることができました。

 今回はバスパックの出来事を主に報告していますが、兵庫教区では個人でも数人が現地にて活動しています。個人で参加した時も、もちろん全国から意欲的な方々が集まっているので、想像以上に作業は捗りますが、両者を比較すると、僧侶25人の集団が成し得る結果は、はるかに大きなものと感じました。また、作業を進めるうえで、思いやり、慈しみの心を、そこに届けられているように見受けられるのは、決して身贔屓ではないと思います。

 バス往復28時間という長旅でしたが今後、この活動を通して得た経験を檀信徒や地域の方々にお伝えし、東日本の復興に少しでも寄与すると同時に、人の痛みを自分の痛みと感じられる、慈しみに満ちた国づくりに貢献しようと思います。

気仙沼港対岸の大浦での作業の様子 犠牲になられた方々に対して祈りを捧げる

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