天台宗について

The TENDAI Journal~天台ジャーナル~

天台ジャーナル 第206号

新型コロナウイルス感染拡大に関する声明 「心を合わせて力を一つに」

 杜多道雄天台宗宗務総長は4月17日付けで、「新型コロナウイルスの感染拡大に関する声明」を発表した。「『忘己利他』『一隅を照らす』を旗印に、心を合わせて力を一つにして邁進しましょう」と呼びかけている。
 声明文は、「天台宗務庁における新型コロナウイルス感染症への対応について(職員の勤務形態変更について)」、「比叡山延暦寺法会等諸行事変更状況一覧」と共に17日に全国の宗内寺院へ送付。同時に天台宗公式ホームページに掲載した。

 杜多道雄天台宗宗務総長は4月17日付けで、「新型コロナウイルスの感染拡大に関する声明」を発表した。「『忘己利他』『一隅を照らす』を旗印に、心を合わせて力を一つにして邁進しましょう」と呼びかけている。
 声明文は、「天台宗務庁における新型コロナウイルス感染症への対応について(職員の勤務形態変更について)」、「比叡山延暦寺法会等諸行事変更状況一覧」と共に17日に全国の宗内寺院へ送付。同時に天台宗公式ホームページに掲載した。

 声明では、「今重要なのは利他の精神ではないでしょうか」とし、利他を実践する菩薩僧の養成に心血を注がれた伝教大師の御心を汲み、「国民一人ひとりが菩薩僧としての自覚を育み、出家の菩薩と在家の菩薩がそれぞれに手を取り合い、僧俗一貫となって世の中をよくしていこうと努力することが大切」と説明。平和で安心し心豊かに暮らせる社会を目指すには、「仏国土」建設を目指された伝教大師の『忘己利他』の実践が大切だと強調した。
 そして、「今こそ、願わくは、一人だけ解脱するのではなく、一人だけ安楽な結果を得るのではなく、生きとし生けるすべてのものとともに、仏の悟りを得て、仏の悟りの素晴らしさを味わいたい」との伝教大師の御誓願を体し、「『忘己利他』、『一隅を照らす』の旗印のもと、すべての人々が助け合い支え合ってよりよく生きることのできる社会が一日も早く到来するよう、心を合わせて力を一つに邁進してまいりましょう」と呼びかけている。
 また、新型コロナウイルス感染症により亡くなられた方々と遺族へ哀悼の意を表し、罹患者へのお見舞い、対峙する医療従事者などにも敬意を表し、「個人でも、地域でも、国家でも連帯して未曾有のコロナ禍に立ち向かっていかねばならない」との決意を示した。
 刻々と変化する状況に鑑み、杜多内局は対応策を検討してきた。今回の声明も、4月15日に庁内で協議の上、出すことを決めた。
 天台宗では、新型コロナウイルス感染症の国内での発生状況を踏まえ、健康と安全の確保、感染拡大防止という観点から3月30日付けで、「緊急のお願い」とする文書を、4月3日付けで「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた行事開催の基本方針」を宗内全寺院へ送付していた。

―宗務庁は交代勤務で対応―

 なお宗務庁は、4月20日(月)~5月29日(金)までは職員を2班に分けた交代勤務で対応する。(4月27日(月)~5月8日(金)は閉庁)
 比叡山延暦寺では4月20日から当面の間、全山拝観を停止。延暦寺会館、国宝殿、叡山文庫も閉館する。主な行事では、長講会(但し一山住職による法会を勤める)、本山得度、戸津説法は中止とした。
 各教区宗務所では、4月7日に政府から発出された緊急事態宣言を受け、対象都府県の北総教区宗務所は5月31日まで臨時閉所、南総教区宗務所は5月31日までは月・水・金の13時~16時のみ開所。神奈川教区宗務所は5月8日のみ開所する。東京教区宗務所は、5月6日まで緊急閉鎖としている。埼玉教区宗務所は、5月10日まで臨時閉所にする。また岡山教区宗務所は独自にコロナ対策本部を立ち上げ対応に当たっている。(4月24日現在)

素晴らしき言葉たち -Wonderful Words-

「ねえ、あなた。話をしながらご飯をたべるのは楽しみなものね。」

「濹東綺譚」 永井荷風

古き良き昭和時代の一コマとして、食事時の団らん風景が取り上げられることがあります。食卓を囲み、祖父母、両親、子どもたちがその日の出来事などで盛り上がる光景です。今ではあまり見られませんが。

 時代が移り、祖父母のいない核家族が増え、そのうえ社会の経済環境が変化してくると、両親の共稼ぎも多くなり、一緒に食事を取ることが減りました。
 子どもは子どもで、塾のために本来の夕食時間には不在となり、親も帰宅時間が異なります。結果、家族全員でご飯を食べることが少なくなったのです。
 「食卓の団らん」は次第に減ってきて、代わって「孤食」が増えてきました。家族それぞれの生活パターンがばらばらなってしまいましたから、無理もないことかも知れません。
 
 食べることは人間にとって欠かせないことですが、忙しい時には「時間をかけない」ようになります。現代は、昔に比べて「食」に重きを置かない流れにあるのか、時間をかけない食事の工夫を次々と生み出しました。ファストフードといわれる食品、「チンすれば食べられる」冷凍食品などです。コンビニやスーパーに行けば、忙しい現代人向けに調理され、後は食べるだけになったこれら「孤食」に好都合な食品でいっぱいです。そんな食品での食事は、いろんな話をゆっくりと交わす時間を与えてくれません。

 たっぷりと時間をかけて、会話を交わしながら食事を取ることは、今では贅沢なことかも知れません。しかし、はるか昔の時代から、一日の終わりに、とりとめもない会話を交わしながらゆっくりと時間をかけて食事をしてきたのではないでしょうか。人間の営みにおいて、非常に大切な時間だったのでは。
 いつかまた、そんな懐かしい日々が戻ってくることはあるのでしょうか。

鬼手仏心

偕老同穴(かいろうどうけつ)

今の日本は、新型コロナ感染問題で、かつてないほどの不安と緊張状態になっており、行く末が案じられます。
 ですが、東日本大震災のことも忘れられません。被災地に生きるものとして、未だ心が痛みます。
 この9年の間にも災害は毎年、多々起こりました。災害発生時、被害状況が新聞やテレビで刻々と報道されますが、浸水した戸数や決壊した河川、死者行方不明者数などの数字が印象に残り、ともすると一つ一つの被害に秘められた状況が浮かんできません。

そんな中、今でも心に残る老夫妻の出来事があります。昨年の台風19号で被災した福島県いわき市であったことです。河川の決壊で平屋の家は浸水しました。妻は、かろうじて水が及んでいないベッドの上に夫を引き上げようとしましたが果たせませんでした。
 「長いこと世話になったな」と足の不自由な夫は妻の手を握り、別れを告げ、泥水に沈んでいったといいます。
 59年連れ添った妻は一人残されました。「夫婦は二人でいるのがいい。一人はつらい」と。悲しい話です。
 夫婦の愛情の深さを表す言葉に「偕老同穴」という言葉があります。『詩経』に出てくる語ですが、「生きては共に老い、死んでは同じ墓に葬られる」の意で、夫婦の契りが固いことを指します。「長いこと世話になったな」の言葉は、偕老同穴に至らざる悲痛の一言です。残された人生を共に生きることもできず、別れねばならない老夫の心情、残される老妻の無念。

 自然災害に毎年襲われ、多大な被害を蒙る日本。報道の数字の影に、一つ一つのかけがえのない事実が秘められています。これからも災害のニュースが数多くあるでしょうが、このことは心しておきたいと思っています。 

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