天台宗について

The TENDAI Journal~天台ジャーナル~

天台ジャーナル 第198号

「世界平和祈りの集い」
比叡山宗教サミット32周年 世界の宗教代表者が垣根を越えて平和を希求

 比叡山宗教サミット32周年「世界平和祈りの集い」が8月4日、比叡山延暦寺の一隅を照らす会館前「祈りの広場」で開催された。仏教はじめ、神道、キリスト教、イスラーム、新宗教など国内外から約900名の宗教関係者が参加し、世界の恒久平和実現へ共に祈りを捧げた。

式典は午後3時から杜多道雄天台宗宗務総長の開式の挨拶で始まった。
 天台青少年比叡山の集いに参加した青少年研修生らと、一隅を照らす運動総本部から招待されたタイとインドの子ども達10名も共に折り鶴を奉納した。
 比叡山メッセージが朗読された後、続いて森川宏映天台座主猊下がお言葉を読み上げられ、「世界の現実は自国の立場に固執し不信を募らせ、武力による威嚇や武力行使は後を絶ちません。こうした争いによる犠牲者の苦しみと悲しみに心を寄せるとともに暴力と憎悪の連鎖を断ち切り、互いが和する協調の力で慈悲の心を育てねばなりません」と訴えられた。
 その後、国内外の諸宗教代表者ら11名が登壇。午後3時半に文殊楼にある鐘楼「世界平和の鐘」が打ち鳴らされると、壇上の代表者たちは会場の参加者とともに平和を願う黙祷を捧げた。
 海外からもメッセージが寄せられ、ローマ教皇庁諸宗教対話評議会(PCID)議長のミゲル・アンヘル・アユソ・ギクソット司教(代読・駐日ローマ法王庁大使館参事官ヴェチェスラヴ・トゥミル)、パン・ワナメティ世界仏教徒連盟(WFB)会長(代読・和田善秀全日本仏教会総務部長)の平和メッセージが披露された。
 また、子どもたちから「平和への思い」と題した作文を、高校生代表の和田真琴さん(高一)、青少年代表の貴船新太さん(中三)が朗読、その思いをうけ、宍野史生扶桑教管長が宗教者の将来に向けた取り組み等を若者たちに約束する言葉を送った。
 最後は小堀光實延暦寺執行の挨拶があり、参加者全員で互いに手をつなぎあうよう呼びかけられ、平和への祈りと行動を続けることを誓いあい閉会となった。

素晴らしき言葉たち -Wonderful Words-

悪は人にあるのでなく、戦争にあるのだと思うの

ポーランド人女性

 ポーランドの都市グダニスクにある記念碑に花を添えていた女性が、第2次世界大戦中の悲劇を振り返りながらこう話しました。女性の親戚は1939年にグダニスク(当時はダンツィヒ)にあるポーランド郵便局で働いており、ナチスドイツとの攻防で亡くなったとのことでした。女性はその記念碑に毎日来ているのだそうです。
 ポーランドでは第2次世界大戦で当時の全人口の16パーセントにも及ぶ人が戦死しました。かの国の人がその悲しみや苦しみを飲み込むことは現在もまだできていないのは当然です。
 「罪を憎んで人を憎まず」ということわざが日本にもあります。ずいぶん昔からいわれてきたことですが、この考え方を心から受け入れ、実践するのはとても難しいように思います。
 かつて『アンノウン・ソルジャー』というフィンランドの戦争古典文学といわれる作品がありました。映画化され日本でも公開されました。劇中で、10代の優しげな風貌の新米兵士がベテラン兵士にこう尋ねます。
 「敵(ソ連兵)も人間ではないのですか」。ベテラン兵士は答えます。「敵は人間ではない。敵だ」。
 このベテラン兵士はずいぶん冷酷な人間のように思えます。劇中で敏腕スナイパーの彼は、ソ連兵を情け容赦なく銃で次々と倒していくのです。
 しかし、彼は早く自分の役目を終わらせて家に帰りたいのだ、と仲間に訴えます。麦の収穫の季節なのに、妻は身重で子どもたちはまだ小さい。だから自分は帰らなければいけない、と訴えるのです。普段の彼は、良き夫であり、良き父であり、良き農民なのです。
 その映画の台詞を聞いたときに「悪は人にあるのではなく、戦争にあるのだ」という女性の言葉が頭によみがえりました。
 戦争の本当の怖さは、「敵」という名の下に、そこに生活する人間の顔を見えなくしてしまうことなのでしょう。これは現在もなお、様々な国で起きている国同士の憎悪にも通じることかもしれません。

鬼手仏心

「幼保無償化」

 この10月から「幼保無償化」が実施されます。これは幼稚園や認定こども園の教育費、保育園の保育料が補助される国の施策です。子どもの年齢や公立・私立など施設によって上限金額があったり、入園費や送迎費、行事費などは対象になりませんし、教育費すべてが無料となるわけでもありません。
 少子化や高額化する教育費に対する施策ではありますが、一つには消費税増税による国民の反発を和らげる狙いもあるようです。増収となった税をいくらか還元しようというものです。子育て家庭には嬉しい制度ではあります。
 でも、幼稚園教諭や保育士さんなど、現場の人たちの7割近くが反対だという調査結果もあるそうです。無償化すると、保育園では入園希望が増え、その結果、待機児童が増加することや、幼稚園も保育園も、その入園者増加による仕事量の負担が大幅に増大するからです。すると、幼児教育や保育の質も低下する恐れが出てきます。
 親の負担を減らし、少子化傾向を抑えたいという行政の考えも分かりますが、受け入れ側の業務改善などについても考えてほしいところもあります。
 さらに付け加えると、園児、子どもたちにとってどういう形が一番望ましいのか、という視点を忘れてはいけないと思います。これが最も大切なことでしょう。近年、昔のように開放的な園ばかりではなく、保安上、外部と遮断された園や衛生上の配慮から砂場が室内にある園などが増えているようです。加えて、園の生活音が問題視され、園の新設が難しくなったりしています。
 色々の問題がありますが、園児を預かる身としては、子どもたちが毎日毎日、園で元気にはつらつと過ごしてくれればという思いだけです。

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