天台宗について

The TENDAI Journal~天台ジャーナル~

天台ジャーナル 第174号

比叡山宗教サミット30周年記念「世界宗教者平和の祈りの集い」
分裂と憎悪を乗り越えて
8月3・4日 国立京都国際会館・比叡山延暦寺・将軍塚青龍殿

「平和への努力を誓う。固い絆を!」

 比叡山宗教サミット30周年記念「世界宗教者平和の祈りの集い」(主催・日本宗教代表者会議)が8月3日、4日の両日、国立京都国際会館並びに比叡山延暦寺、将軍塚青龍殿を会場に開催された。
 テーマ「今こそ平和のために協調を〜分裂と憎悪を乗り越えて〜」のもと、世界18ヶ国からの宗教指導者24名を含めた約2千人が参加。世界が直面する諸問題解決へ胸襟を開いて議論し「忘己利他の精神で平和のために献身することを誓う」とする比叡山メッセージ2017を山上から世界に発信した。

 飢餓や貧困、地球温暖化、核拡散、そして内戦など諸問題解決に向け、今サミットでは「相互理解と連帯」こそが人類に平和と繁栄をもたらすものであることを世界に示すことを目的とした。
 京都国際会館での開会式では、日本宗教代表者会議事務総長の杜多道雄宗務総長が、「世界平和を実現するためには、お互いに対話し相互理解を深め、価値観の多様性を認め、共生の思想を共有することが必要」と今サミットの意義を強調。ローマ教皇フランシスコ聖下、パン・ワナメティ世界仏教徒連盟会長、ムハンマド・ビン・アブドルカリーム・アルイーサー世界イスラーム連盟事務総長からも、趣旨に賛同するメッセージが寄せられ比叡山宗教サミット30周年での成果に期待が寄せられた。
 続いて聖エジディオ共同体のアルベルト・クワトルッチ事務局長が講演し、アッシジから比叡山に受け継がれた30年を振り返ると共に、これからも固い絆で交流を続けることを約束した。
 明石康元国連事務次長、ウィリアム・ベンドレイ世界宗教者平和会議(WCRP)国際事務総長らの基調講演、また杉谷義純事務局顧問をコーディネーターとするシンポジウムでは「テロと宗教〜暴力的過激主義に宗教者はどう立ち向かうか〜」をテーマに、キリスト教、イスラーム、仏教、ユダヤ教、諸宗教対話の指導者7名が真摯に議論を交わした。
 終了後には緊急メッセージとして、内戦が続くシリアから参加したファーロック・アクビック名誉教授が登壇し「あらゆる場所のあらゆる人間を、その存在を脅かすような迫りくる危険から守ってください」と会場へ理解を求めた。
 夕刻からは将軍塚青龍殿へと移動。京都市内を一望できる舞台中央に不滅の法灯と平和へのメッセージを書いた折鶴が入ったオブジェが中央に置かれ、約300名の宗教指導者らによって、戦争や自然災害などで失われた全ての命に鎮魂の祈りが捧げられた。
 4日は、「核廃絶と原子力問題を考える」、「貧困の追放と教育の普及」をそれぞれテーマに分科会が設けられ、基調発題に基づき、各宗教代表者らが意見を述べ合った。午後からは会場を比叡山延暦寺一隅会館前広場に移し、世界平和祈りの式典を開催。「平和の交歓」では、森川宏映天台座主猊下の「平和の努力を誓う。固い絆を!」との発声で宗教者らが手を取り合い世界平和の実現を祈った。
 最後に「憎悪と排除からは争いしか生まれない。忍耐強い対話と他者の存在を受け容れる努力こそ、平和への近道であることを強く訴える。そして我々の切なる願いが神仏に聞き届けられるように祈り、行動していくことをここに宣言する」とするメッセージが発表された。

素晴らしき言葉たち -Wonderful Words-

素晴らしき言葉たち

 天の海に 雲の波立ち 月の舟
 星の林に 漕ぎ隠る見ゆ

柿本人麻呂

 最近は9月が実に暑く感じられますね。とはいえ、夜は日中の暑さ冷ましにふさわしい心地よい風を感じられる時があり、一年の中で、秋は夜空をしむのに最もった季節だなと思わされます。
 この歌は、夜空を海、空にかかる雲を白波、欠けた月を船にたとえています。「広い天の海に雲の波が立っている。無数にまたたく星が林のように広がり、月の船が漕いで入っていくのが見えるよ」といった意味です。口ずさんでも美しい大和言葉の響きが愉しめますし、言葉から得られる情景もまた幻想的で、ファンタスティックな夜空が目の前に広がるかのようです。
 作者である柿本人麻呂は660年から724年頃の人なので、いまから約1300年前に詠まれたと考えられていますが、そのような昔にも拘わらず感覚はとても現代的で、まるでSFのような世界観に圧倒されてしまいます。今年亡くなられた詩人の大岡信さんは「『万葉集』にはすぐれた叙景歌が多いが、中での異色作」と評しました。
 日本人は古来より、自然を畏れ敬いながら、壊すことよりも寄り添い、大切にしていくことを選びながら生きてきました。そして『万葉集』に限らず、その後の和歌集にも自然を詠ったものは多く収録されています。
 そして現在の日本は、アニメーション、またコンピュータグラフィックス(CG)が駆使されたゲーム等で世界をリードするようになりました。その映像はあらゆる世界を作りだし、映し出すことができます。
 実はその下地が太古の昔、祖先たちが自然から得たインスピレーションや想像力といったものであったとしたら…。それが、私たちの身体のなかに脈々と流れ、豊かな映像を作る力につながっているのかもしれません。
 そんなことを考えながら、『万葉集』を手に、夜空を眺めたり、部屋で映像を鑑賞したりして、秋の夜長を愉しむのもよいのではないでしょうか。

鬼手仏心

鬼手仏心

 先日、霧島連山の高千穂峰に登った。登山が目的ではない。ただ「それ」を間近に見たければ1574mの山を登らねばならなかった。
 山頂にある「天逆鉾」である。
 高千穂は天照大神の孫、が天より降り立った地で、いわゆる「天孫降臨」の地とされる場所である。その山頂に三本の剣をめにしたような形の鉾が天にむけて突き立てられている。本来、鉾は上に向けて突くので逆というなら剣が地面を突き刺していなければならないが、火山の噴火で折れてしまい新しく作り直された際、見た目良く上に向けられたというのが通説である。
 瓊瓊杵尊がと呼ばれる天より、と呼ばれる地上に降り立ったのは、神より譲り受けたこの国を統治するためである。幾度の交渉の末、成し遂げられた国家平定。この鉾はその際、大いに役立てられ大国主神より譲り渡された鉾である。その後、瓊瓊杵尊が国家の安定を願い、鉾が二度と振るわれることのないようにとの願いをこめて高千穂峰に突き立てたという伝承がある。
 本来、争いで人を傷つける為の武器が真逆の平和の象徴にされたのである。逆鉾の「逆」という文字がそういう意味を含んでいるというのなら、日本という国家を愛し、平和を維持しようという思いが神話の中に息づいているように感じる。
 人類の欲望による争いは無くせないのかもしれない。しかし、平和を維持しようという気持ちさえなくさなければ、努力はいくらでもできるだろう。日本に住む者は、日本という国家を造り、大事にしてきた先人たちの根本精神を忘れてはならない。
 次は、に会いに富士山登山を計画している。

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